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HANAに懐疑的な“都市伝説”を否定、DBエンジン次期版やモバイル対応アプリ群を発表

2013年5月20日(月)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)

独SAPが米フロリダ州オーランドで5月14日(現地時間)から16日に開催した年次イベント「SAPPHIRE NOW」の最終日(5月16日)の基調講演には、同社のテクノロジを牽引するハッソ・プラットナ氏とビシャル・シッカ氏が登壇した。インメモリー処理技術「HANA」への懐疑的な意見を払拭すると同時に、複数のHANA関連製品や、三井物産などHANAのクラウドサービスの導入に動いているユーザー企業などを紹介した。

最初に登壇した、SAP創業メンバーの一人であるハッソ・プラットナ氏は冒頭、「HANAはプラットホームになった。これまではインメモリー・データベースとしてのHANAについて話すしかなかったが、今後はHANA上で動作するアプリケーションが話題の中心だ」として、HANAと、それを中核に抱くSAPのビジネスが次のステップに移行したことを強調した。

そのことを証明するかのように、プラットナ氏はQ&A形式でHANAをプラットホームにした際のユーザー企業のメリットなどを解説していった。その中の質問の一つに「HANAにまつわる謎と真実」と題し、NANAにまつわる種々の“都市伝説”を取り上げた。

【写真1】HANAの“都市伝説”に自ら回答するハッソ・プラットナ氏

HANAの名称は元々、「HAsso's New Architecture」に由来する。アーキテクト自らの技術解説は、必ずしも簡易ではなかったが、会場は同氏の言葉に耳を傾けていた。

HANAがもたらす価値は「イノベーション」

プラットナ氏が挙げたHANAの都市伝説は、次の7つである。種々のメディアなどに掲載された内容だ。

(1)仮想化ができない。
(2)専用のハードウエアを必要とする。
(3)マルチテナントをサポートしない
(4)ビジネスプロセスを中断させる
(5)まだ本格活用できる段階にない
(6)SAPアプリケーション専用である
(7)古いカラム型ストアを使っている

当然ながら、プラットナ氏の回答は、これらを否定するものだ。それぞれに対する回答の骨子は次の通りである。

(1)仮想化は可能
(2)x86ベースのインテル・リファレンス・アーキテクチャに沿っており専用ハードは不要
(3)マルチテナントは可。人材管理SaaS「successfactors」のデータベースをOracleからHANAに移行できることが証明
(4)HANAはデータ層に変化を与えるもので、ユーザーインタフェースなどは影響を受けない
(5)SAPPHIERの展示内容が、本格活用段階にあることを証明
(6)先行事例の60%は、SAPアプリケーション以外。50社強のベンチャー企業も利用している
(7)カラム型ストアの考え方自体は古くからあるが、インメモリー化やパラレル処理によりCPUコア当たり3GBのデータを1秒で処理できるHANAは最新である

都市伝説を否定したうえで、プラットナ氏が訴えたのは、HANAをプラットフォームに据えることで「企業はイノベーションを起こせる」という点だ。最大の理由は、HANAがもたらす高速処理、すなわちスピードである。既存アプリケーションを全く変更しなくても、「SQL処理だけでも早くなるため、イノベーションの競争に参加できる」ともした。

ここでSAPがプラットホームと呼んでいるのは、インメモリー・データベース・エンジンとしてはHANAではなく、それにWebアプリケーションサーバーなどの複数のミドルウェアやサービス機能を組み合わせたソフトウェア群としてのHANAであり、それを使ったクラウドサービスを指している。

数学の力を借りてビジネスの変革を

プラットナ氏に続いて登壇したCTO(最高技術責任者)のビシャル・シッカ氏は、HANAがもたらす影響について、最も重要なことは、「数学とデザイン」だとし、同社が推進する「Design Thinking」の活用を訴えた。

【写真2】数学の力を借りたビジネスデザインを強調したCTOのビシャル・シッカ氏

Design Thinkingは、ビジネスモデルおよび、それを実現するためのシステムを開発するための方法論。シッカ氏は、「数学の力を借り、テラバイト単位のデータを秒単位で処理できることで、ビジネスプロセスがどう変わるかをイメージすることが大切だ。そこでは、我々自身も変わっていかなければならない」とした。

そのうえでシッカ氏は、HANAのテクノロジそのものよりも、HANAのユーザー動向やSAPPHIRE期間中に発表した新製品群など、HANAの製品化が着実に進展している点を強調した。

ユーザー動向としては、サービス提供を発表したクラウドサービス「SAP HANA Enterprise Cloud」のユーザー企業として、リーバイス、ダイムラー、レックスマークなどの海外企業のほか、日本の三井物産を挙げた。三井物産は、自社のERPが持つデータと社外のマーケット動向データを組み合わせた市場予測にSAP HANA Enterprise Cloudを利用する計画だという。

新製品群としては、データベースエンジンとなるHANAの最新版「HANA SP6」(発表は現地時間の5月16日)、アプリケーション群の「SAP Flori」(同5月15日)、BIソフトの「SAP Lumira」(同5月10日)などである。HANA SP6では、データ仮想化機能や地理情報の取り扱い機能などを追加した。FloriとLumiraは、HTML5ベースのアプリケーションで、SAPが重点領域に挙げるモバイル環境を含めて動作するのが特徴だ。

HANAが動作するハードウエア環境については、米IBMや米シスコシステムズ、NECや日立製作所、富士通などのパートナー企業を紹介。米インテルや米HPなどハードウェア・ベンダーとの蜜月関係を見せ、「ソフトウェア・ベンダー」としての同社の立ち位置を強調してもみせた。

米HPとは、ビッグデータ処理用ハードの開発プロジェクト「Kraken」(開発コード名)を進めていることを今回、明らかにした。Krakenは240のCPUと12テラバイトのメモリーを搭載する。

【写真3】米HPとの共同プロジェクト「Kraken」を披露した。左は米HPのCOO(最高執行責任者)のビル・ベグテ氏

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