SaaSライクなPaaSから、より本格的なPaaSへ──サイボウズの「kintone」が企業の業務システムのフロントエンド開発ツールとしての色彩を強めている。APIのオープン化、業務システムとの連携機能の強化などだ。どちらかと言えばEUC(エンドユーザーコンピューティング)のツールという性格が濃く見えるkintoneだが、情報システム部門が真剣に調査・検討していいサービスの1つになりつつある。
顧客管理や案件管理、プロジェクトの進行管理といった現場の業務を支えているのがマイクロソフトのExcel。簡便さ、便利さゆえに広く使われているが、ファイルのバージョンを維持したり、情報を共有したりするのに難があることは周知の通りだ。OneDriveなどクラウドストレージにExcelファイルをアップすれば情報共有は可能だが、誰かが一部を変更した場合、誰がどこを変更したのかが分かりにくい。コピーも簡単なので、どのファイルが最新かつ正規なのかも見えにくくなってしまう。
この問題の解決策の1つになるのが、サイボウズが提供するクラウドサービス「kintone」だ。Web上で自由にデータベース(ファイル)を作り、共有を前提に管理・閲覧する機能を備える。例えば誰かがデータを追加したり、変更したりすればその情報がすべて残る。変更履歴を含めた属性情報とデータがセットになっているイメージである。
データベースを作る際もメニュー選択で既存パーツを組み合わせれば済むので、簡単なものならコツをつかめば数分でできてしまう。ワークフロー機能でそれを回覧したり、データを自動集計する機能、セキュアな形で社外の人とデータを共有する機能など、グループウェアを祖業とする同社らしいサービスと言えるだろう。
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何の話かというと、そんなkintoneの特性が大きく変わりつつあるかに見えるのだ。サイボウズはkintoneのサービスを開始した2011年11月の時点で、それを「プログラム不要のPaaS」と位置づけてきた。青野慶久社長になると「簡単・早い・安いのファストフードになぞらえて言えば、kintoneは“ファストPaaS”です」と紹介していたほどである。
しかしSaaSやIaaSと違ってPaaSというジャンルは分かりやすいとは言えず、アプリケーションの開発機能にも限界があったため、現在は「Webデータベースを作ることができるクラウドサービス」と表現している(図)。あえて言えば「EUCのためのSaaSライクなPaaS」と言ったところだ。
それがここへきて、「企業情報システムのフロント開発向けの本格的なPaaS」に変わりつつある。その現れの1つが、4月10日に「kintoneをプラットフォームとした開発をサポートするためのコミュニティサイト、cybozu.com developer network(https://cybozudev.zendesk.com/)を開設した」(同社)こと。cybozu.com(kintoneとGaroon)のAPIを公開し、これらを生かしたアプリケーションの開発を促す試みだ。例えば、kintoneの機能を使ってスマホ・アプリを開発し、kintone経由で業務システムと連携させるといったシステム開発を可能にする。
もう1つが他のIT企業と相次いで提携していることだ。いくつか挙げると、5月13日にキヤノンIT ソリューションズと提携。複合機と、業務システムや情報系システムとを連携させるソフト、「Enterprise Imaging Platform」をkintoneに対応させた。例えば業務システムから商品原価や納期を取得して見積書を作成。複合機のFAXで送信するといった一連の作業を、kintone上に作成した商談管理DB(システム)で完結できる。
5月12日には、業務用ソフトの開発を行うシステムズナカシマ(本社岡山市)との協業を発表。同社のパッケージ製品である営業支援ソフト「NICE営業物語」のクラウド版を「kintone」上で開発、5月14日からクラウドサービス「NICE営業物語 on kintone」の提供を開始した。同社は「kintoneがシステム開発に耐えうる性能と精度を持っていた」とコメントしている。ほかにもBIツールのQlikViewや帳票出力ツールのOPROARTSとの連携、中堅・中小企業向け会計パッケージとの連携など、様々なアプリケーション、機能を相互連携させる機能─PaaS─を備えつつある。
一般にPaaSと言えば米Pivotalの「Cloud Foundry」やIBMの「BlueMix」、マイクロソフトの「Azure」、レッドハットのOpenShiftなど米国系のサービスが有力。だが一般の情報システム部門や業務部門のIT担当者が使いこなすには、これらはハードルが高いのも確かだ。米国製のPaaSと比べたとき、kintoneをPaaSと呼んでいいかは疑問もあるが、情報システム部門はこの“日の丸PaaS”にもっと注目してもいいかもしれない。