[インタビュー]

「当面はIaaS、PaaSに集中する」─米RedHatのCEOにクラウド戦略を聞く

イノベーションの基盤になるPaaS

2014年10月22日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

クラウドコンピューティング分野で、IaaS基盤やPaaSのソフトウェアを巡るITベンダーの動きが活発になっている。この分野で注目企業の1社である米RedHatは現状をどう捉えているのか。

 商用Linux「RedHat Enterprise Linux(RHEL)」で確固たる地位を築いた米RedHat。同社が次に焦点としているのがプライベートなIaaSを構築するための基盤ソフト「OpenStack」と、やはりプライベートなPaaSを構築するための「OpenShift」である(注:プライベートといっても、通信事業者やデータセンター事業者がこれらを使ってパブリックなサービスを提供することもある)。

 しかしLinuxと異なり、プライベートなIaaSもPaaSもこれからの分野。競争は激しい。Linuxでは強力なパートナーである米IBMや米HPはそれぞれ独自のOpenStackのディストリビューションを提供しており、PaaSでもOpenShiftではなく、もう一つのオープンソースPaaSソフト「Cloud Foundry」を採用している。

 米RedHatは、この状況をどう捉えているのか? 来日したジム・ホワイトハースト社長兼CEO、それにアレサンドロ・ペリーリ オープンハイブリッドクラウド部門長に聞いた。

 結論を先に書くと、(当たり前かも知れないが)焦りや戸惑いめいたものは一切なかった。自信の源泉は、クラウド関連ソフトウェアを牽引するのはオープンソース・ソフトウェア(OSS)であり、OSSの流儀に誰よりも精通するのがRedHatである、というところから来ているようだ。以下、一問一答でお伝えする。

─まずホワイトハーストさんに、本題に入る前に聞きたいことがあります。RedHatは、製品やサービスの販売動向から世界各国のITに対する取り組み状況を把握できますよね。日本はどのように見えていますか?

米RedHatのジム・ホワイトハースト社長兼CEO

 数年前はともかく現在、Linuxの活用に関しては日本は世界の中でも進んでいる国の1つです。ミドルウェアのJBossについてはそこまで行っていませんが、これは時間の問題であり、急ピッチで普及しています。OpenStackについても日本でよく聞かれるようになりました。

 日本が遅れている分野があるとすればPaaSです。数週間前、欧州に滞在して多くの企業のCIOと話す機会を持ちました。話題の中心はLinuxではなく、PaaSとDevOpsでした。モバイルやIoT(Internet of Things)などの新しいアプリケーションを構築するための環境ついて、議論が集中したんです。ただし我々のローカライゼーション、日本語化の動きが遅れている面もあります。ですから日本企業がPaaSやDevOpsに意欲的ではないとは見ていません。

─今のお話の通り、日本でもPaaS/DevOpsへの関心は高まりつつあります。そんな中でRedHatは最近、モバイル開発ツールの企業を買収しました。それもPaaS重視の表れでしょうか?

 その通りです。9月に買収を発表したのはFeedHenryという、企業向けのモバイル開発/管理プラットフォームやAPIマネジメントのツールを提供しているアイルランドの企業です。同社は小さな会社ですが(本誌注:買収額は6350万ユーロ)、モバイルファーストという考え方が普及する中で、モバイル/アプリケーションの開発に欠かせないソリューションを持っている点を評価して買収に至りました。

 今年はほかにも買収しています。OpenStackのインテグレーション行うeNovance、ソフトウェア定義ストレージ(SDS)のInktankです。相互にあまり関係がないように見えるかも知れませんが、RedHatはPaaSを含めたより良いクラウドを構築し、その“体験”を提供することに集中しています。すべて関連があるんです。これからもクラウドの体験を高めてもらえるようにするため、必要な買収は続けます。

─当面の焦点はクラウド関連のソフトウェアということですか? 他のIT企業が力を入れているアナリティクスの分野はどうでしょう。

 よく「ビッグデータやアナリティクスはどうするのか」と聞かれます。これは例えばHortonworksのような企業と、協業することで補完できます。我々自身のリソースに限りがあることもありますが、今はアナリティクスなどほかの分野は考えず、IaaSやPaaSに集中します。将来はともかくね(笑)。

─では、そのIaaS、PaaSをお聞きします。日本でも関心が高まっているOpenStackは、IBMやHPのような大手メーカー、ノベルや、さらにはVMwareのような企業がディストリビューションを提供しています。RedHatにとっては必ずしも目論見通りではないように思えますが、OpenStackをどう普及させる考えでしょう?

 OpenStackのような基盤ソフトウェアで重要なのは持続可能かどうか、言い換えればパートナーを含めたエコシステムが成立しているかどうかです。当社はオープンソースで持続可能な事業を成立させている最大の会社であり、パートナーエコシステムを含めて考えれば唯一の会社と言えます。そのことがユーザー企業に大きなメリットをもたらすでしょうし、今なお、より強固なエコシステムを形成すべく努力を続けています。

 ではIBMやHPはどうでしょうか。彼らのOpenStackではそれが成立しないでしょう。価値観が違うからです。一方、VMwareは客観的に見て、OpenStackと競合する製品も提供しています。

 RedHatが他社と異なるのは、オープンソースコミュニティにおける「カタリスト(触媒)」のポジションにいることです。コミュニティをサポートし、開発を加速させる。大手メーカーや通信事業者からは中立です。このことがエコシステムには欠かせません。

─ではPaaSはどうでしょう。RedHatの「OpenShift」に対し、Pivotalが主導する同じOSSの「Cloud Foundry」は、IBMやHP、SAP、NTTコミュニケーションズなどに支持を広げています。

 同じです。OpenShiftの場合、コミュニティ版とディストリビューション版、それにパブリックPaaS「OpenShift Online」は同一です。すでに多くの開発者に利用されていますし、例えばOnlineでは有料の顧客が50社います。Cloud Foundryはどうでしょうか? それを使ったIBM BlueMixの有料の顧客は、どれだけいるでしょう。

 インターオペラビリティの問題もあります。OpenShiftは3つの版が同じです。例えばOnline版の利用者の声はコミュニティ版や商用版に反映され、一貫性を保つ仕組みがあるからです。エコシステムを形成するためには、それが決定的に重要です。

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RedHat / IaaS / PaaS / OpenStack / OpenShift / Cloud Foundry

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