[市場動向]

企業がOpenStackのメリットを享受できるのはまだ先?―米451リサーチの「クラウド物価指数」

2015年5月8日(金)河原 潤(IT Leaders編集部)

「プライベートクラウドのTCO(総所有コスト)に目を向ければ、現時点では、OpenStackよりも、ベンダーのソリューションを選んだほうがベターだ」――これは米国のIT市場調査会社、451リサーチ(451 Research)からの提案だ。その根拠として同社はプライベートクラウドの構築・運用にまつわるコスト指標「クラウド物価指数」を公開している。

 451リサーチは独自のクラウド物価指数(Cloud Price Index:CPI)を通じて、クラウドサービスの利用や構築を検討する企業に対し、透明性の高いコスト比較指標の提示を試みている。同社は2015年5月1日に公開したプライベートクラウド版CPIの最新版について、「ここ数年で大幅に拡充されたプライベートクラウド構築手段を適切に選定する際に有用だ」とアピールしている。

 今回のCPIでは、進境著しいオープンソースのクラウド環境構築・管理プラットフォームのOpenStackと、主要ソフトウェアベンダーのソリューションとの比較にフォーカスが当てられている。451リサーチは、クラウド管理プラットフォームを提供中のベンダー/SIer/ITコンサルティング企業数十社に、プライベートクラウドソリューションの提供形態やオプションを含めた価格体系をヒアリング。そこで得られた各種のファクターを分析し、CPIを算出している。

現時点のOpenStackが抱える課題

 クラウド物価指数の一例として、451リサーチは次のケースを示している。米レッドハットとマイクロソフトがそれぞれ提供中の、VMwareベースの小規模なプライベートクラウドの場合、1仮想マシン(VM)あたりで要するコストは共に0.08ドル/時だという。一方、OpenStackディストリビューションで1VMあたりで要するコストは0.10ドル/時。OpenStackを選択すると20%の節約になる計算だ。

 しかしながら、これはあくまでコストだけの比較である。451リサーチは、このコスト比較に、OpenStackを用いて自社の要件を満たしたプライベートクラウドを構築・運用するためのスキルやエンジニアの人件費などの要素も加えて分析を行っている。

 その結果、企業がベンダー製プライベートクラウドの構築・運用のためにエンジニアの人件費を3%増やしたとしても、現時点ではOpenStackを採用した場合よりも低いTCOを実現できるという。451リサーチの試算では、OpenStackでTCOの明確なアドバンテージが得るためには、人件費を45%削減しなくてはならない。

 ここにパブリッククラウドとは違う、比較の難しさがある。パブリッククラウドの価格体系はオープンかつ単純で、基本的にリソースの使用量に基づいてチャージされる。一方、プライベートクラウドでは、価格体系や支払条件、設計技法などが顧客ごとに定められ、依然として、従来のオンプレミスシステムと同じように調達される。451リサーチは、こうしたプライベートクラウドの“プライベートな事項”が価格の不透明さを招いていると指摘する。

プライベートクラウド構築・運用の“黄金比”

 現時点でいくつかの課題があるにしても、OpenStackの将来性を見込んでプライベートクラウドのプラットフォームに選びたいという企業はきっと多いだろう。今回のCPIにおいて451リサーチは、プライベートクラウド構築・運用の“黄金比”(golden ratio)なるものを紹介している。これは、企業が自前で小規模プライベートクラウドを構築・運用して良好なTCOを生み出すためには、エンジニア1人あたりで何個のVMの正常稼働をサポートしなくてはならないのかを示すものだ。

 同社はその黄金比を、「1エンジニアあたり約100個のVMの稼働サポート」としている。エンジニアチームがこの比率を実現できれば、企業は自力で、平均的な価格のマネージド型のプライベートクラウドよりもすぐれたTCOを得られるという。逆に、この比率を実現できなければ、さっさとマネージド型のプライベートクラウドを契約したほうがトクというわけだ。

451リサーチは独自のクラウド物価指数(Cloud Price Index:CPI)を通じて、クラウドサービスの利用や構築を検討する企業に対し、透明性の高いコスト比較指標の提示を試みている
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