クラウドコンピューティングは既存IT資産の置き換えではなく、新規アプリケーションの開発/運用や、情報化が進んでいるとは言えない中堅中小企業向け? そんな仮説を傍証する予測をMM総研が公表した。IDCジャパンの調査と合わせて見てみよう。
2019年度に2兆円──調査会社のMM総研は、国内クラウド市場規模の実績・予測を発表した。2014年度の7749億円から年率23.6%で成長し、2015年度には1兆円超、2019年度には2兆円を超える見通しだ(図1)。一見すると高成長のようだが、この数字をどう見ればいいのか?
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別の調査会社であるIDCジャパンが2015年2月に発表した予測によると、国内のIT市場規模は2015年が14兆3496億円(図2)。今後もハードウエア市場が減少、サービスとパッケージソフトウェア市場が増加する中で、2018年に14兆8083億円と予測する。
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両社の調査を比較すると、クラウド市場の規模は2018年にもIT市場の7分の1と、3年経ってもマイナーな存在に留まる。同時に、クラウドが既存のIT製品やサービスを置き換えるわけではなく、情報化が進んでいない中堅中小企業や大企業における新たなアプリケーション構築に利用される傾向があると考えることができそうだ。
ではなぜ既存のITを置き換えるに至らないのか? MM総研は調査の中で「クラウドを検討したが利用しなかった理由」を聞いている(図3)。2006年にクラウドという言葉が生まれて10年、一貫して変わらない「顧客情報、業務情報等の漏洩不安」を抑えて、「運用コストが高くなってしまう」が1番の理由だった。
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クラウドの方が運用コストが高くなるというのは意外な気もするが、(1)すでに構築・運用しているシステムを単純にクラウドに移行するだけでは移行コストも含めて高くつく、(2)保守切れなどでサーバーを更新する場合でも新サーバーの値引きと数年の利用を考慮すれば高くはない、(3)クラウド移行により保守運用の人件費などを削減できるにせよ、浮いた人材を生かす策がない、といったことの複合要因なのかも知れない。
実際、IDCジャパンの国内サーバー市場の予測によれば、 2014年の国内サーバー市場規模は前年比1.7%増の4697億円(http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20150514Apr.html)。2019年のそれは3844億円と減少する。しかし減少率は年率3.9%と小さくはないが、甚大とも言えない。台数ベースでは横ばいか微増と推定できる数字だ。
一方、MM総研は、パブリッククラウドのうちIaaS/PaaSについて、どの事業者を利用しているかも聞いている。その結果が図4。「AWSが41.4を占め、この割合は年々増加傾向にある。Azureも国内DCでのサービスを開始したため、前回調査より10%以上も利用率を高めている」(MM総研)。
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Google Cloud Platformを含めトップ3が海外勢が占める。順当な結果とも言えるが、MM総研の中島洋所長は「急成長する市場を海外ベンダーが大きくリードしている。国内ベンダーの奮起に期待したい」と述べている。
なおMM総研は、まず国内企業1万896社にWebによる予備調査を実施。その中からクラウドサービスを導入済か検討中の1609法人を対象に本調査を実施し、そこからクラウド市場規模を推計しているという。回答者は情報システムやネットワークの管理・運用担当者、または決裁や選定に関与するIT担当者である。