2016年2月7日、IoT推進コンソーシアム傘下の組織であるIoT推進ラボが、「第1回先進的IoTプロジェクト選考会議」の受賞プロジェクトを発表した。グランプリに輝いたのは、認証ソリューションのベンチャー企業Liquidの「訪日観光客の滞在快適性向上おもてなしプロジェクト」。この選考会議が、IoT推進ラボの主な成果のひとつとなっているようだが、大手企業を中心に1千社以上が集まるIoT推進フォーラムの活動の一環としてどのような意味があるのか、疑問を投げかける声もある。
IoT推進コンソーシアムは、国内のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)推進のため、経済産業省と総務省が2015年10月23日に立ち上げた産官学連携の組織。立ち上げ当初から大手を中心に750の企業、団体が参加、現在では1000以上の企業・団体が参加する巨大組織となっている。
コンソーシアムの下部組織として、専門ワーキンググループ(WG)、技術開発WG、先進的モデル事業推進WGという3つの実行部隊がぶら下がっている。このうちの先進的モデル事業推進WGが「IoT推進ラボ」として活動を行っており、今回発表の受賞プロジェクトはこのラボの活動の一環として実施されたものだ。
IoT推進ラボの活動内容は、同ラボのホームページによると「ラボ三原則(成長性・先導性、波及性(オープン性)、社会性)に基づき個別のIoTプロジェクトを発掘・選定し、企業連携・資金・規則の面から徹底的に支援する」「大規模社会実装に向けた規制改革・制度形成等の環境整備を行う」となっている。
このうちの「資金面での支援」が今回の受賞プロジェクトに当たる。「IoT Lab Selection」と銘打った官民合同資金・規制等支援活動は、プロジェクト選考会議で採択された企業に対し資金支援とメンター(PM:プロジェクトマネージャー)からの指導・助言などの伴走支援を行うというもの。資金の上限は3千万円。
選考会議では、グランプリのLiquidのほか、準グランプリとしてabaとルートレック・ネットワークス、審査員特別賞としてエブリセンスジャパンが選ばれている。グランプリのLiquidは、生体認証によるカードレスの決済サービス「Liquid」を提供するベンチャー企業だが、2015年には総務省のICTイノベーション創出チャレンジプログラムに採択されたほか、長崎ハウステンボス、イオン銀行で実証実験を開始している。
新進気鋭のベンチャーが先進的IoTプロジェクト選考会議でグランプリに選ばれたことに異論はないが、そもそもIoT推進コンソーシアムの枠組みの中で、ベンチャー企業を選び、資金支援を行うことにどれだけの意味があるのか疑問符が付く。しかも選ばれたのは、実績十分のベンチャーだ。総務省のICTイノベーション創出チャレンジプログラムや情報処理推進機構(IAP)の未踏事業など、公的なベンチャー支援プログラムが1つ増えたに過ぎないという見方もできてしまう。
すでにIoT分野では、国内でも多くのベンチャーが起業しており、中には世界的な活躍が期待される企業も登場している。これらの企業の多くは、自ら資金を調達して事業を拡大させている。これまで、ベンチャーが既存のビジネスモデルの破壊にチャレンジしていく中で、大きな障害となってきたのは、資金面よりもむしろ規制だった。IoT推進ラボの活動としては、表彰制度よりも規則改革に注力すべきだろう。
この規制改革を推進していくことで初めて、IoTベンチャーの成長を促す環境が整備されたといえる。規制に守られている側の大手企業が、コンソーシアム参加企業の多くを占めているのが現実だが、そこで止まっていたのではコンソーシアム設立の意義が失われる。大企業、ベンチャーの垣根無くIoTを推進する環境を整備していくことが、コンソーシアムの果たす重要な役割のひとつのはずだ。