自らの業務を「サービス」ととらえ、ビジネスの品質や効率の向上、あるいはガバナンスの強化に努め価値を提供してきたIT部門。社内を見渡せば、そうあってしかるべき部門や業務は多々あるが、なかなか改革は起こらない。今こそIT部門主導の下、これまでの知見を活かした改革に挑むべきだ。目指すは「エンタープライズサービスマネジメント」の実践である。
クラウドやビッグデータ/IoT(モノのインターネット)、モバイルといった進化著しいICTが、企業のビジネスを大きく変えようとしている。フィンテックしかり、Uberしかり、Airbnbしかり、顧客起点の斬新なビジネスモデルで急成長を遂げる企業が続々と登場しているのは周知の通りだ。スタートアップに限らず、危機意識を持った大手は「サービスシフト」を旗印に変革を急いでいる。
熾烈さを増す競争を勝ち抜く基本は、限りある経営リソースを、ビジネス価値を創り出すことに集中させることにある。特に重要なのは、知恵を絞り、関係者と議論し、アイデアの具現化にむけて行動を起こす「人」の余力を生み出すことだ。換言すれば、業務の生産性や品質をとことんまで突き詰める努力である。
成長戦略を描く上では企業間コラボレーションの視点も欠かせない。先行者が一気に優位なポジションを築く時代、すべてを自社でまかなうよりも、独自の得意分野やノウハウを持つ企業が団結してビジネスを組み立てた方がスピーディーに立ち回れる。カルチャーを異にする故の“化学変化”も期待できるだろう。もっとも、協業という土俵に上がるには、「それに相応しい業務品質を備えているか」が試金石となる。
こうした観点で自社を見つめ直した時、どれだけ胸を張れるだろうか。PCに向かって当該業務にあたっている限り、効率よく仕事をこなしているようにも思えるが、客観的にみれば管理もフローも一元化されておらず、非合理的なシーンは幾つもある。卑近な例を挙げれば、新入社員の各種手続き。定期券の申請や健康保険の加入、PCをはじめとする備品の貸与、メールアドレスの設定など、さまざまな手続きを、都度、複数の部署とやり取りしなければならない。それがベストなのか? 当たり前と思っている業務の中にも、改善の余地は山ほどある。
社内業務はサービスの連鎖
だからこそ「サービスマネジメント」が不可欠
ここで活きてくるのがIT部門が培ってきた「ITサービスマネジメント」の知見だ。先進的なIT部門は、自らの業務をITサービスのプロバイダと位置付け、品質と費用対効果の最大化、あるいはガバナンスの最適化を念頭に、運用の維持管理や継続的改善に努力を積んできた。価値の創造、インシデント管理や問題管理、変更管理といった取り組みのベストプラクティスはITIL(Information Technology Infrastructure Library)としても体系化されている。
「人事や法務、経理…企業活動は、様々な“サービス”の連鎖で成り立っているととらえることができます。だからこそ、ITサービスマネジメントの実践で培ったノウハウを各部門の業務にも展開する、すなわち“エンタープライズサービスマネジメント”を実践すれば、生産性も品質も劇的に向上させられると期待できる。IT部門が変革のリーダーシップを発揮すべき領域なのです」──。こう強調するのは、ServiceNow Japan株式会社 ソリューション・コンサルティング本部 プリンシパル・アドバイザーの久納信之氏だ。
同社は、まさにこのエンタープライズサービスマネジメントを支える仕組みをクラウドベースで提供している米国発のベンダーである。サービス名そのものも「ServiceNow」だ。元々は、ITサービスマネジメントの実践を目的に採用されるケースが多かったが、ユーザーニーズに呼応する形でカバー範囲を拡げ、今では「IT以外」での適用事例が続々と増えている状況にある。
ITサービスマネジメントに向けたソリューションは市場にいくつもあるが、ServiceNowは何が違うのか──。「既存ツールの多くは、資産管理、プロジェクトマネジメント、変更管理、サービスデスクなど機能ごとにばらばらで提供されてきました。スイートを謳う製品もありますが、企業買収でラインナップを揃えてきた背景から、データベースの構造やアーキテクチャが異なっているケースも少なくありません。結果、機能の連携が不十分だったり、バージョンアップの際に整合性がとれなかったり、といった問題を抱えていたのです」とは久納氏の弁だ。
単一プラットフォームに機能を集約
多彩な情報を一元的に管理する
そうした課題を一掃するServiceNowの最大の特徴は、サービスマネジメントに必要となる、インシデント管理、問題管理、変更管理、構成管理、サービスレベル管理といったすべてのアプリケーションが、クラウドのサービスとして、単一のプラットフォーム、データベースで構成され、ワークフロー上に統合されている点にある。「シングルシステム・オブ・レコードという設計思想により、多彩な情報を一元的に管理でき、包括的なサービスマネジメントを実現できるのです」(久納氏)。
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さらに、様々な運用業務を自動化するためのワークフローエンジンや、ユーザー独自のアプリケーションを開発するための機能も提供する。独自アプリケーションを構築するにあたって、ServiceNowから提供されるテンプレートの充実もメリットだ。「ITILに即した100種類以上のテンプレートを提供しており、問題管理、変更管理、資産管理など、ほとんどのケースでテンプレートをそのまま利用できます。さらにActive Directoryとの連携により、ユーザー情報を自動的にServiceNowに反映させ、組織構造に基づくワークフローの定義も簡単に行えます。これらの機能群により、システムの導入、開発期間の短縮が図れるようになります」と久納氏は語る。
ServiceNowをベースに、ITサービスマネジメントのみならず、他のサービス指向の業務を実践すれば、すべてのやり取りや関連情報が一元的に記録されていく。何らかのインシデント(人事や法務でもインシデントは起こる)が発生した際に、証跡をたどることもたやすい。つまりは、GRC(ガバナンス、リスク、コンプライアンス)の観点からも社内業務が正しく、有効に、そして確実に機能しているのか、日々確認できるようになるわけだ。情報セキュリティの管理・リスク・制御に関する規格である『ISO27000』などの審査認証においても、過去に遡って、膨大な資料を集めることなく、ServiceNowに蓄積した情報がそのまま利用できる。
「クラウドサービスは“Small Step Quick Win”、すなわち、小さく始めて、迅速に成果を得ることが真骨頂。まずは、ITサービスマネジメントから確実に実施し、そこからエンタープライズサービスマネジメントへと展開、最終的には、ガバナンス、リスク、コンプライアンスへの対応も進めていくという段階的なステップアップで臨むことが重要です」と久納氏。
ビジネスへの直接的貢献というプレッシャーが日増しに高まるIT部門。大風呂敷を広げるよりは、得意としノウハウも豊富な領域を水平展開するのが近道となる。その意味において、ITサービスマネジメントを「エンタープライズ」に拡げていくアプローチは理にかない、自らのアウェアネスを高める絶好のチャンスでもある。
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