既存のIT資産を継承しつつ、オンプレミスやプライベートクラウド環境とパブリッククラウド環境を統合するハイブリッドクラウドを多くの企業が指向している。これにより、運用を最適化したインフラストラクチャー、構成可能で統合されたアプリケーション開発プラットフォーム、高機能で柔軟に利用できるビジネスアプリケーションなどを実現すると同時に、IT管理の集中化を促進することができる。こうしたイノベーションを加速する「真のハイブリッドクラウド」に一貫して注力しているのがIBMだ。
IaaSの領域では、まずベストエフォート型で提供しているサービスとして、2013年7月に買収した「SoftLayer」がある。グローバルな高速・低遅延バックボーンネットワークを有するとともに、ベアメタル(物理サーバー)へのプロビジョニングも可能といった付加価値を強みとするパブリッククラウドだ。
一方で、長年にわたるIBMのITサービスマネジメントのベストプラクティスを実装したITILベースのマネージドIaaS、「言うなればアウトソーシングのクラウド版」(田口氏)として提供しているのが、「IBM Cloud Managed Services(CMS)」である。例えばセキュリティーレベルに注目すると、SoftLayerも決して脆弱なわけではなく一般的なパブリッククラウドに対する優位を誇っているのだが、CMSが提供するそれはまさに次元が異なっている。
CMSが実装している侵入防止システムは、2014年に1400件を超えるセキュリティーイベントを検知したが、当然それらを100%ブロックした。ちなみに同年に適用されたセキュリティーアドバイザリー(パッチ)は467件に及ぶという。こうしたセキュリティー管理の実績により、「過去にも現在にもCMS上のお客様のシステムが、不正侵入やハッキング、破壊などの危険にさらされた例はまったくありません。また自社でこれだけの数のパッチを適用するとなるとどれほどの時間と要員を費やすことになるんでしょうか。」と田口氏は強調する。
では、使い勝手はどうだろうか。CMSは世界12カ国15カ所にデータセンターを展開しており、そのすべての拠点から「同じサービスや運用を、同じ価格、同じ品質」で提供している。ユニークなのは、契約国の法律や通貨が適用されることだ。例えば日本で契約した場合は、日本語の契約書を使用し、日本の法律のもとで海外データセンターのCMSを利用し、複数サイトの利用分を一括して「円」で支払うことができる。料金は契約時の為替レートで円換算されるので、為替変動のリスクまで避けられる。「海外展開やITガバナンス強化を目的としてクラウドを検討する際に、こうしたCMSの強みを、日本のお客様にも高く評価いただいています」と田口氏は語る。
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物理的に異なるIaaSを共通のマネージドサービスで統合
さらに、CMSの上位レイヤーに位置するのが「IBM Cloud Managed Services for SAP Applications(CMS4SAP)」で、迅速なプロビジョニング、高い柔軟性、優れたサービス品質のSAP Business SuiteおよびSAP Business ObjectsのPaaS環境を提供する。
IaaSのみのクラウドでは、SAPアプリケーションの高可用性を考慮したインフラ設計・運用設計や基盤の構築、さらに場合によっては時差や言語を考慮した運用体制構築やSAPスキル・リソースの継続確保など、様々な要件を個別に考慮して設計・構築・運用する必要がある。
一方、CMS4SAPではこれらがパッケージ化されたクラウド・サービスとして提供される。サーバー・OSだけでなくSAPアプリケーションまでを含むSLAや、SAPアプリケーションの立ち上げまでを考慮した災害対策オプションのRTO(目標復旧時間)およびRPO(目標復旧地点)が設定されており、大きな初期投資をせずに、安定稼働が要求されるSAPアプリケーションの運用サービスとそのプラットフォームをクラウドとして利用することができる。
例えば、グローバル展開に力を注ぐある化粧品メーカーは、海外における子会社設立や新ビジネスの立ち上げに際して、同時期に複数拠点でSAP環境を整備する必要性に迫られた。ここで注目したのがCMS4SAPだ。TCOを抑えられることや、運用面でも安心できる水準でカバーされることなどを評価して、最終的にCMS4SAPの採用を決断した。
また、IBMとSAPの両社は、2014年にエンタープライズクラウドの導入を共に加速していくパートナーシップを結んだ。この協業のもとでお客様は、「SAP HANA Enterprise Cloud」の基盤としてIBMのクラウドを選択できるようになったのである。
この流れを受けて2016年2月、IBMはSoftLayer上で提供してきた「IBM Cloud Automated Modular Management for SAP(AMM4SAP)」とCMS4SAPを統合した「IBM Cloud for SAP Applications」を発表。これにより、CMSとSoftLayerという物理的に異なるIaaSのプラットフォームが、共通のマネージドサービスのもとで運用できるようになる。「堅牢性の高いCMSとフレキシブルな従量制課金のSoftLayerを適材適所で使い分けたハイブリッドクラウドを、高度なガバナンスを効かせながらグローバルに展開することが可能となります」と田口氏は語る。SoftLayerのベアメタル上におけるSAP環境の動作認証も進められており、ユーザーが得られる選択肢は、今後さらに広がっていくと予想される。
さらに両社は4月6日に新たな提携を発表。デジタル時代に最適化した事業モデルやIT基盤の整備を急ぐ企業に対して、それぞれの技術力を密接に連携させながらソリューションを提供していく姿勢をあらためて強調した。具体的には、IBMのクラウド関連やコグニティブ・コンピューティング関連のテクノロジを「SAP S/4HANA」や「SAP HANA Cloud Platform(HCP)」とより強固に統合を図っていく。
ハイブリッドクラウドの強化に向けた新たな動きとしては、2016年2月21~25日の5日間にわたって米国ラスベガスで開催された「InterConnect 2016」で発表された、VMwareとの戦略的提携も見逃せない。
IBMとVMwareの両社は、オンプレミス環境をパブリッククラウドにシームレスに伸長するSDDC(Software-Defined Data Center)のアーキテクチャーを共同開発するという構想を示した。これにより、「事前に構成済みまたはカスタマイズされたVMwareの仮想環境をvCloud Airのみならず、IBMのクラウド環境にもワンクリックで自動的にプロビジョニングできるようになります」と田口氏は語る。
また、別途PaaSとして提供している「IBM Bluemix」は、単なる開発環境や運用環境にとどまらずコグニティブシステムやアナリティクス、IoTなどの上位サービスを統合するプラットフォームとして進化を続けている。こうした一連のクラウドソリューションを柔軟かつ自在に連携・融合していく中から、APIエコノミーの時代に対応した真のハイブリッドクラウドが実現するのである。
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