既存のIT資産を継承しつつ、オンプレミスやプライベートクラウド環境とパブリッククラウド環境を統合するハイブリッドクラウドを多くの企業が指向している。これにより、運用を最適化したインフラストラクチャー、構成可能で統合されたアプリケーション開発プラットフォーム、高機能で柔軟に利用できるビジネスアプリケーションなどを実現すると同時に、IT管理の集中化を促進することができる。こうしたイノベーションを加速する「真のハイブリッドクラウド」に一貫して注力しているのがIBMだ。
イノベーションを加速するハイブリッドクラウドの“原則”とは
クラウドは大きな転換点を迎えている。かつてクラウドは、ビジネスの成長やシステムの処理負荷の変動にあわせてリソースを柔軟に拡縮できるといった弾力性、つまりはシステム構築~運用におけるコスト削減の手段としてのメリットが注目されてきた。それが現在では、ビジネスの“破壊的変革”をドライブするプラットフォームとして位置付けられるようになった。
様々なシステムやサービスを縦横無尽に連携させることで新たな付加価値を生み出す、いわゆる「APIエコノミー」の台頭により、様々な業界で既存のビジネスモデルや枠組みの破壊が起こっている。自社で車を1台も保有せずに世界最大級のタクシー会社となったUber、自社で客室を1室も持つことなく世界最大級の宿泊業となったAirbnbなどはその象徴的な存在だ。既存の企業にとって重要なのは、破壊される側に甘んじるのではなく、旧態依然としたビジネスモデルの限界や制約を、自らが打ち破って変革していくことだ。もっとリーン(筋肉質)になっていくための武器として、クラウドを戦略的に活用していく必要がある。
ただ、スタートアップ企業はともかく既存の企業にとって、すべてのビジネスを一足飛びにクラウドに移行することは容易なことではない。これまで築いてきたIT資産についても、強みとして活かせるものは当然のこととして継承していかなければならない。そうした中での最適解として行き着くのが、オンプレミスまたはガバナンスの効かせられるプライベートクラウド環境を、シームレスにパブリッククラウドに連携させるハイブリッドクラウドである。
日本IBMの理事でありクラウド事業統括 クラウド・サービス事業部長を務める田口光一氏は、「IBMが提供するあらゆるクラウドのサービスや体系は、ハイブリッドクラウドに立脚しています」と強調。イノベーションを加速するハイブリッドクラウドのあり方として、「適材適所にワークロードを配置できるアーキテクチャーの一貫性を持つ」「ハイブリッドインテグレーションにより既存データ資産の価値を最大化する」「より深いインサイトを引き出す、すぐに使えるデータと強力なアナリティクスを提供する」「学習し、意思決定をサポートするコグニティブソリューションの基盤となる」「開発と検証を繰り返すDevOpsにより高い生産性を実現する」といった5つの“原則”を示す。
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IaaSを超えるアウトソーシングのクラウド版
サービスライフサイクルの速いSoE(Systems of Engagement)*1 のシステムには、ベストエフォートであっても伸縮性や柔軟性に優れたクラウドが求められる。一方、基幹業務をはじめとするサービスライフサイクルの緩やかなSoR(Systems of Record)*2 のシステムには、より堅牢なセキュリティーやサービスレベルの保証が求められる。
要するに、画一的なクラウドのオファリングによって企業のすべてのニーズを満たせるわけではなく、「お客様に多様な“選択肢”を提供していくことが、IBMのハイブリッドクラウドの使命です」と田口氏は語る。
*1 SoE(Systems of Engagement): 顧客に積極的に関与し、“その場にふさわしい体験”を提供することで、最終的には収益に結び付けることを目的とした、新しいタイプのシステム。
*2 SoR(Systems of Record): ビジネスの取引の実態を記録することに主眼を置いたシステム。トランザクション処理を中心とした、従来型の業務システムがこれに相当する。
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