企業向けIT製品の大手である米HPエンタープライズ(HPE)が、ソフトウェア事業の売却を検討していることが明らかになった。米ロイターが関係筋の話として報じたもので、投資銀行のGoldman Sachs Groupから75億ドルのオファーを受け取っており、HPEは売却金額は80億ドルから100億ドルを見込んでいるという。
HPEのソフトウェア事業には、2006年に45億ドルで手に入れた「Mercury Interactive」、2011年に103億ドルで買収した「Autonomy」のほか、ビッグデータ分析プラットフォームの「Vertica」や情報セキュリティ対策の「ArcSight」、さらには各種のITオペレーションソフトウェアが含まれる。
このうちMercuryはソフトウェア開発におけるワークフロー管理や機能テスト、負荷テストなどを行う、いわゆるアプリケーション・ライフサイクル管理製品。Autonomyはパターン認識技術を応用した非構造データのサーチや分析、ナレッジマネジメントをサポートする。Verticaなども含めて日本でも相当数のユーザー企業がおり、売却が実現すれば何らかの影響を受けそうだ。
売却先候補として名前が上がっているのは、Thoma Bravo(https://thomabravo.com/)というプライベートエクイティ(PE)投資会社。日本では馴染みがないが、アプリケーション性能管理ツールを持つCompuwareを傘下に持ち、この6月にはBIツール大手のQlik Technologiesを30億ドルで買収している。
最近では、データマネジメント・ツールのInformaticaやスウェーデンのERPベンダーIFSのように、PE投資会社の傘下に入って非公開化するソフトウェア企業が増えている。製品開発やクラウド対応といった戦略投資を行う上で、株主還元が優先する上場よりも非公開化の方がメリットがあるためだ。この点ではHPEのソフトウェア事業がPE投資会社の傘下入りすることの方が、最終的にユーザー企業にとって利点があるかも知れない。
一方、買収に投じた金額を下回るとしてもHPEがソフトウェア事業の売却を検討しているのは、それとは別の話。HPE自身がサーバー製品やネットワーク機器、ストレージなどのコア事業に集中するためとされる。実際、HPEは買収したEDS(Electronic Data Systems)を中核とする法人向けITサービスやIT運用を担うエンタープライズサービス部門を分離。5月に米IT大手のCSC(Computer Sciences Corp)と合併計画を進める計画を発表している。
IT製品大手では米Dellも6月にソフトウェア事業を投資会社に売却することで合意済み。また傘下のITサービス事業をNTTデータに売却することで合意したと3月に発表した。2015年10月に発表したEMCの買収後、急ピッチで選択と集中を進め、IT基盤製品のラインアップ充実や販売網の拡大を図るのが狙いだ。HPEのソフトウェア事業売却には、Dellの攻勢に対応する意図もあるかも知れない。