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日立、自己競争で学習するビジネス向けAI技術を開発、学習データが不要に

「エージェント間の学習管理機能」と「AIエージェント進化技術」を開発

2017年12月25日(月)日川 佳三(IT Leaders編集部)

日立製作所は2017年12月25日、参考になる過去の実績データが少ないビジネス領域を対象とした人工知能(AI)技術を開発したと発表した。複数のAI群でビジネスを表現し、AI群同士がコンピュータ上で自己競争を行うという手法によって、学習データを使わずに予測モデルを作る。サプライチェーンのシミュレーションでは、人の判断と比べて在庫や欠品による損失を4分の1に低減できることを確認した。

 今回、日立製作所が開発したAI技術は、ビジネスの問題に適用可能なAI技術の1つである。AI同士を自己競争させるという手法によって、学習データを使うことなく予測モデルを作成する。新しい戦略、改革、未経験の脅威への対応など、過去の類似事例のデータが少ないケースにAIを適用できるようになる。

図1:AIの自己競争によってビジネス上の課題を解決する技術を開発した(出典:日立製作所)図:AIの自己競争によってビジネス上の課題を解決する技術を開発した(出典:日立製作所)
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 新技術では、小売店や問屋などのビジネスに関わる個々の企業を、深層強化学習を用いたAIエージェントで表現する。さらに、複数のAIエージェントを相互接続したAI群で、サプライチェーンなどのビジネスを表現する。個々のAIエージェントは、置かれた状況を考慮して、お互いにモノや情報のやりとりを繰り返すことで、最適な発注量など、与えられたアウトカムの向上に有効なアクションを学習する。

図2:自己競争を繰り返すことにより、最適なアウトカムを達成できる予測モデルを作成する。キモとして、エージェント間の学習管理機能と、AIエージェント進化技術を用いる(出典:日立製作所)図2:自己競争を繰り返すことにより、最適なアウトカムを達成できる予測モデルを作成する。キモとして、エージェント間の学習管理機能と、AIエージェント進化技術を用いる(出典:日立製作所)
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 新技術の特徴は、学習を行う際に、AI群をコンピューター上に複数生成し、同時並行で学習を実行することである。それぞれのAI群のアウトカムを競わせる「自己競争」を何千回と繰り返すことによって、より良いアウトカムを追求する。学習を効率化するために、エージェント間の学習管理機能、AIエージェント進化技術という2つの技術を用いる。

 同社が実施したシミュレーション試験では、小売店や問屋などから成るビールのサプライチェーンを模した「ビールゲーム」において、熟練した人間の判断と比べて、サプライチェーン全体の在庫や欠品による累計損失を、35ターン終了時に2028本から489本へと4分の1に低減できた。

 今後、日立は、同AI技術のライブラリと、同ライブラリを用いて開発したビールゲームのサンプルアプリケーションを、日立グループの企業に対して公開する。ソースコードを公開し、グループ企業内で自由にユーザー向けのSI(システム構築)事業や製品・サービスに組み込んで使ってもらう予定である。

学習モデルを交叉させてAIエージェントを進化させる

 日立は、自己競争を効率化するために用いる、エージェント間の学習管理機能とAIエージェント進化技術の両技術について次のように説明している。

 エージェント間の学習管理機能は、AIエージェントの学習を制御する機能である。相互接続された複数のAIエージェントのそれぞれの学習を管理し、各AIエージェントの学習が、相互に悪影響を与えることを防止する。

 各AIエージェントの学習タイミングを制御し、学習の初期段階ではひとつのAIエージェントのみに学習させ、徐々に学習するAI エージェントの数を増やす。これにより、AIエージェントが同時に学習する時に生じる競合を避ける。

図3:AIエージェント進化技術の概要(出典:日立製作所)図3:AIエージェント進化技術の概要(出典:日立製作所)
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 AIエージェント進化技術は、学習モデルを交叉させることによって、AIエージェントを進化させる技術である。AI群の間で、AIエージェント同士のモデルのパラメータを掛け合わせることで、新たなモデルを持つAIエージェントを生成し、新たなAI群を構築する。

 新たに構築したAI群を含め、複数生成されたAI群のアウトカムを比較し、アウトカムの劣るAI群は消滅させ、アウトカムが優れるAI群を残す処理(自己競争)を繰り返す。これにより、より良いアウトカムを追求できる。

過去のデータがないビジネス課題をAIで解決する仕組み

写真1:新技術の背景について説明する、日立製作所の理事で研究開発グループ技師長の矢野和男氏写真1:新技術の背景について説明する、日立製作所の理事で研究開発グループ技師長の矢野和男氏
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 新技術を作った背景について日立は、「ディープラーニング(深層学習)がブームになって注目されている一方で、ディープラーニングのようなAI技術がビジネスで成果を上げるのは、まだこれからである」と説明している。

 過去の類似事例のデータが大量にある場合は、教師あり学習によって改善できる。実際に、日立では70案件以上のユーザー事例を手がけてきた。

 「一方で、新しい戦略、改革、未経験の脅威への対応など、過去の類似事例のデータが少ない場合は、AIを活用できていなかった。囲碁ゲームのような、ルールが決まっている世界では、データを与えなくても自己競争で強くなれる。一方で、ビジネスは不確実性が高いので、AIをビジネスに適用する方法は知られていなかった」(日立の理事で研究開発グループ技師長の矢野和男氏)

 こうした経緯で日立は、複数のAIエージェントで成り立つAI群でビジネスを表現し、AI群同士のアウトカムを競争させるというやり方で、ビジネスに適用できるAI活用技術を開発。自己競争を効率化する手法として、エージェント間の学習管理機能と、AIエージェント進化技術を開発したという。

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