理化学研究所、富士通、昭和大学、国立がん研究センターの4組織は2019年7月26日、超音波検査画像をAIで診断する際の課題である「影」を効率よく検出できる新技術を開発したと発表した。ディープラーニング(深層学習)によるラベルなしデータの学習によって影を検出する。ラベル付きデータを用意する必要がないので、容易に導入できる。
超音波検査では、超音波ビームが骨などの構造物に反射することで、それよりも遠い位置の画像を取得できないことがある。こうして、その箇所が「影」として映ることがよくある。これは「音響陰影」と呼ばれている。
音響陰影が原因で、検査画像の中には、臓器を隠してしまう影など、そのまま解析すると誤った検知結果を導くものが含まれる可能性がある。このため、不適切なデータに対して再取得を促す機能が求められている。
超音波検査画像に映り込む影を検出する方法の1つが、ディープラーニングによる影の検出である。影の有無をラベル(正解)付けしたラベル付きデータを学習(教師あり学習)させて影を検出するというアプローチである。
ただし、教師あり学習では、十分な量の「影あり/影なし」ラベル付きデータを準備しなければならない。しかし、影ありと影なしの境界を、統一した基準でラベル付けすることは難しい。また、この境界以下の薄い影には、原理的に対応できないという弱点がある。
今回、共同研究グループは、ラベルなしデータを用いた学習によって影を検出する新手法を開発し、従来手法と比べて高精度に影を検出できることを確認した(図1)。新手法はラベルなしデータを学習に用いることから、技術を実装する労力が大幅に削減されるというメリットもある。
ラベルなしデータから影を学習させる方法は、以下の通り。
- 元画像と専門医の知見に基づいてランダムに作成した「人工影」を合成したものを入力画像とする
- その入力画像を、影のみを含んだ画像(影のみ画像)とそれ以外の構造物のみを含んだ画像(構造物のみ画像)に一旦分離した後、それらを合成することで入力画像を再構成するオートエンコーダを構成する(再構成画像)
- 人工影を合成した入力画像と再構成画像との誤差と、人工影と分離した影のみ画像との人工影が存在する領域での誤差が、同時に小さくなるように学習させる
学習後に影を検出する際には、入力画像を超音波検査画像とし、影のみ画像を検出結果とする。影のみ画像の画素値の合計の比較などにより、影あり/影なしを自動的に判定できる。
本技術を、昭和大学病院産婦人科の通常の妊婦健診で取得した胎児心臓の超音波検査動画に適用して評価した。動画93本(約16分)から作成した画像3万7378枚を学習用データとして学習させた。臨床医が7本(約1分)から抜き出して影の部分をラベル付けした画像52枚(評価用データ)を使用し、影画像の検知精度(IoUとDICE)を評価した。
この結果、伝統的な画像処理手法(単純な2値化)、および従来型のディープラーニング手法(SegNet)と比較して、開発した新手法は高精度に影を検出できることを確認した。検出した影が胎児心臓の異常検知に悪影響を及ぼす可能性を見いだすことで、検査者に対して「再走査の指示」を出し、誤った異常検知を防ぐことが可能となる。
今後は、本技術を、2018年度に開発した胎児心臓超音波スクリーニングの基盤技術と統合する。異常検知性能を向上させるとともに、条件を満たさない入力を判定して再走査を指示する仕組みの構築を目指す。