[市場動向]

データドリブン経営の初手「データ活用のマネジメントサイクル」を構築する[前編]

なぜ、データ活用の取り組みが実際のビジネス成果につながらないのか

2020年8月17日(月)大熊 稔史(アビームコンサルティング)

「データドリブン経営」が注目され、多くの企業がその実現に向けてさまざまな取り組みを行っている。具体的には、データサイエンティストを外部から招集してデータ分析・活用の専門組織を立ち上げたり、データ分析・活用基盤を導入したうえでビジネス部門とユースケースを検討しPoCを実施したりといった取り組みだ。しかし、多大な投資をして労力を割いたものの、そのビジネス上の価値を実感しながらデータドリブン経営を実践していると明言できる経営者は実のところ少ないようだ。種々の取り組みがデータドリブン経営につながらない原因はどこにあるのか。本稿では前・中・後編の3回にわたって、企業のデータ活用の現状・課題を洗い出し、その解決に向けたデータ活用のマネジメントサイクルのあり方について考察していく。

データ活用の取り組みから成果を得たと回答した企業は全体の3分の1

 企業が競争優位性を獲得し、維持向上するためには、自社が何のために、どのような価値を提供していくのか、目指すべき方向性を定め、それに基づいた経営戦略を実践していく──ビジネスを取り巻く変化の速度が速く、市場競争が激化している中、このことが一層求められている。

 「データドリブン経営」の目的は、種々のデータから経営の現状を正確に把握し、インサイトを導き出すことで、的確かつ迅速な経営判断や意思決定を可能にしていくことである。データ活用が重要な経営機能となり、この機能の巧拙が競争優位性に大きく影響することになる。

 一方で、実態はどうか。市場調査会社のガートナージャパンが2019年に発表した調査結果によると、「半数以上の日本企業がデータの利活用に着手しているものの、利用可能なデータから何らかのビジネス成果を得ていると回答した企業は、全体の3分の1にとどまる」という状況が判明している(図1・2)。

図1:データ利活用の現状(出典:ガートナー ジャパン2019年5月27日付けプレスリリース「ガートナー、企業におけるデータ活用に関する調査結果を発表」 https://www.gartner.com/jp/newsroom/press-releases/pr-20190527)
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図2:利活用可能なデータによるビジネスへの成果(出典:ガートナー ジャパン2019年5月27日付けプレスリリース「ガートナー、企業におけるデータ活用に関する調査結果を発表」 https://www.gartner.com/jp/newsroom/press-releases/pr-20190527)
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 データ活用の手段や、取得・活用できるデータは以前よりも大きく広がっている。例えば、行動データ解析によるチャネル最適化やSNSなどから収集されるテキストデータの分析・活用など、顧客に対してよりパーソナライズされたサービスが提供可能だ。しかしながら、実態として、大半の企業でデータ活用が思うようには進まず、成果が得られないのはなぜなのか。経営者は、ビジネスの現場でのリアルな実態、要因を改めて把握する必要がある。

企業のデータ活用を阻むものは何か

 筆者の所属するアビームコンサルティングがこれまで数多くの企業に対しデータ活用支援をしてきた中で、共通して見られる課題がある。「社内共通指標の欠如」「データ分析基盤のサイロ化」「ビジネス部門の関与不足」の3つだ。

(1)社内共通指標の欠如
 データによる意思決定を行う以前の問題として、社内におけるデータ活用の共通指標やデータ解釈の統一化が実現できていない点が挙げられる。データ活用に関して、全社として目指すべき方向性が議論されず、組織横断の共通指標やデータの共通解釈がないままだとどうなるか。部門間の利害調整や承認プロセスによって意思決定までに時間を要したり、経営課題の実態を正しく評価できなかったりして、自部門の解釈によって意思決定を行ってしまう。これでは、いくらデータ活用のためのツールなどに投資をしても、ビジネス成果を生むことは難しい。

 当社が支援した企業が、実際どんな課題に直面したのか。営業部門とマーケティング部門の間に縦割り組織の壁があり、それぞれが違う顧客像をイメージしたまま施策に取り組んでいることがあった。マーケティング部門がデータから顧客像を定義しても実態と乖離していて、実際に顧客と向き合っている営業部門からの理解を得られないまま、それぞれの部門で異なる目標やターゲットの施策を立てていたのだ。

 ほかにも、R&D部門とマーケティング部門の間に壁があり、商品開発を行う際に異なるデータソースからそれぞれの部門でデータ分析を行い、異なった顧客ニーズやトレンドの解釈から商品を開発してしまうようなケースも見受けられた。

(2)データ分析基盤のサイロ化
 アナリティクスツールの乱立など、部門ごとにデータ分析基盤がまちまちであることが、多くの企業で課題となっている。複数事業を展開している企業だと、事業部間・事業会社それぞれが顧客データを管理しているケースは多い。その場合、同じ意味のデータ項目であっても定義が異なるため、データの統合を行えずに分析対象にできないようなことが起こる。

 さらには、その状態を解消しようとしてデータの変換やクレンジング処理などを行った結果、その管理や業務プロセスが煩雑化するといった悪循環に陥ってしまう。そして、データ分析で利用するアナリティクスツールも、組織ごとにツールを選定し、それぞれ独自のロジックに基づいてデータ分析を行うケースだ。似たような分析をお互いが行うような非効率が生じ、企業全体で見て生産性の低い、タイムツーマーケットにはほど遠い活動になってしまうこともよく見受けられた。

●Next:データドリブン経営のカギを握る「ビジネス部門の当事者意識」

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