[市場動向]

経産省が次世代IT基盤「クオリティクラウド」に照準─コロナ禍で急浮上した経済/IT安保の視点

総務省の「DC最適配置」ともリンクして、日本のデジタル化を周回遅れから挽回できるか

2021年6月7日(月)佃 均(ITジャーナリスト)

新型コロナウイルス対策で十分な量のマスクやワクチンを自力で用意できなかったことから、ミサイルや戦車とは違う視点での安全保障が政策議論に上り始めた。経済産業省は「経済安保」の観点からIT基盤のクラウドに照準を当てた「クオリティクラウド」の技術開発を、総務省はデータセンター(DC)の計画的な最適配置に乗り出す構えだ。コロナ禍で米・中・EUが域内経済重視に舵を切るなか、日本の経済/IT安全保障策の成り行きが注目される。

オープン+信頼+グリーンを目指すクオリティクラウド

 経済産業省が2022年度IT施策の“目玉”として「クオリティクラウド」という次世代クラウド/IT基盤構想を打ち出した。

 AWS(Amazon Web Service)やグーグルをはじめとする既存のクラウドプラットフォームとの相互接続性(オープン)を確保しつつ、国内の産業・政府・インフラを担うに足る安心・安全(信頼)、CO2排出抑制(グリーン)の仕組みを備えたマルチクラウド技術を開発、併せてデジタル産業の創出に向けてサービス事業者のための開発・運用環境を整備するというもの。2021年5月19日に開催された同省「半導体・デジタル産業戦略検討会議」の第3回会合で大枠が固まった(図1)。

図1:クオリティクラウドの推進(出典:経済産業省 半導体・デジタル産業検討会議 第3回会合)
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 背景として同省/同会議は、日本のデジタル産業戦略検討の必要性を掲げ、第3回会合ではクラウド、サイバーセキュリティ、プラットフォームに焦点を当てている(図2)。

 そして、“周回遅れ”が指摘される産業・経済のデジタル化やITシステムのクラウドシフトの推進・加速に向けて、指標や指針よりも強力な具体的施策が必要と判断。その要件として、ここ数年で発生した米国メガクラウドのシステムトラブルによる影響や、先に内閣官房IT戦略室が策定した「Trusted Webホワイトペーパー」を視野に、「日本に根ざしたIT基盤としてのクラウド」を掲げている(関連記事デジタル社会の「トラスト」とは? 日本発「Trusted Web」構想を読み解く[前編])。

図2:デジタル産業戦略検討の必要性(出典:経済産業省 半導体・デジタル産業検討会議 第3回会合)
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 クオリティクラウドでは、新たなベンダーロックインを生まないよう、確実な相互接続性の確保を目指す。それによりユーザーは特製の異なる複数のクラウドを最適に組み合わせて活用できるようになる。同会議は、クオリティクラウド技術研究開発の領域を示し、要件として以下の7項目を挙げている(図3)。

①災害時(有事)でも処理の確実性を担保
②応答時間の遅延を抑制
③有事対応を含む安定運用を確実にする体制
④研究開発体制を含む長期対応能力
⑤データの取り扱いに関する透明性
⑥プライバシー保護やサイバーセキュリティへの対策
⑦国内法の適用

図3:クオリティクラウド技術研究開発の領域(出典:経済産業省 半導体・デジタル産業検討会議 第3回会合)
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 ⑦の国内法の適用は、海外に本社を置くベンダーを意識したものだ。クオリティクラウドの特徴的な要件となっているCO2排出抑制(グリーン)は、旧来のコンピュータや端末の省電力化を一歩進めたものだが、IoTデバイスやビッグデータ/AI需要でデータトラフィックが爆発的に増加すると予想されることから、クラウドの分散化と最適化によって電力消費を抑制する。加えて、環境負荷の低いAI(グリーンAI)技術も開発することを検討している。

●Next:“デジタル化周回遅れ”を挽回すべく、経産省と総務省の戦略・施策がリンクする

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