非鉄金属砂型鋳物専業メーカーの中島合金(本社:東京都荒川区)は、熟練技能者の暗黙知をAIで代替する実証実験を開始する。AIモデルに純銅の鋳造製造工程における熟練者の暗黙知を学習させて、実業務に適用できるかどうかを検証する。三菱総研DCSが2021年12月13日に発表した。
1920年創業の非鉄金属砂型鋳物専業メーカー、中島合金(本社:東京都荒川区)は、熟練技能者の暗黙知をAIで代替する実証実験を開始する。AIモデルに純銅の鋳造製造工程における熟練者の暗黙知を学習させて、実業務に適用できるかどうかを検証する。
「純銅鋳物はCAC100番台のJIS規格が定められており、品質を一定水準に揃える必要がある。一方、純銅鋳物の製造工程には、原材料の状態や環境条件など、制御しきれないものが存在している」(三菱総研DCS)。こうした製造条件のばらつきが純銅鋳造の難しさの一因となっているという。
「中島合金の熟練者は、製造工程の途中段階でばらつき具合を測定し、測定した値に応じて調整用の添加剤を適切量投入することで、製品の最終品質を均一化する技能を持つ。しかし、この技能を若手が継承するには長い時間がかかるという課題があった」(同社)。
そこで、中島合金は、三菱総研DCSの支援を得て、「製造時のばらつき状態」と「添加剤の投入量」の関係をAIに学習させることを試みた。この結果、熟練者の判断をAIが再現できることを確認した。
今回の実証実験では、AIの判定精度の向上を図る。また、予測時間が実用に足るか、製造の現場技術者が利用するシステムとして操作性に問題はないか、など、システム全体としての業務適用可否を検証する。
「AIに期待する効果は、若手への継承が難しい調整具合の判断を熟練者から引き出し、若手でも活用可能なノウハウ資産へと昇華すること。また、熟練者が調整作業から解放されることによって、より難度の高い業務(例えば、別の製造作業の標準化など)に集中できるようにする」(三菱総研DCS)
「熟練者が持つ技能は、中小製造企業が他社との差別化を生む重要なノウハウであり、競争力の源泉だ。このノウハウを絶やすことなく次世代に引き継いでいくことは、製造企業にとって事業継続性の観点からも重要な課題と言える」(同社)。
三菱総研DCSによると、多くのデータ分析ソフトウェアは、統計学やマシンラーニング(機械学習)に関する深い知識を前提としており、製造の現場技術者が使うには操作の習得に時間がかかるなど導入のハードルが高いのが実情という。同社は、AIのオートチューニングアルゴリズムとUXデザインを活かし、データサイエンスの知識がない現場技術者でも高いハードルを感じずに利用可能なデータ分析ツールを開発している。