[インタビュー]

改めてデジタルワークプレイスを理解する─専門家が説くその本質とは?

米ガートナー バイスプレジデント アナリスト ギャビン・テイ氏

2023年9月19日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

テレワークなど在宅勤務か、それともオフィス勤務への回帰か──。実際には二者択一ではなく、中間に落ち着きどころがあるはずだ。それを象徴するキーワードが「デジタルワークプレイス」だが、分かるようで分かりにくい面があり、今ひとつピンとこない。そこで米ガートナーの専門家に聞いてみた。

 ここ数年、よく聞く概念・キーワードの1つとして「デジタルワークプレイス(Digital Workplace)」がある。一体どういうことなのか、ネット検索してみると色々とヒットする。「業務プロセスをデジタル化し、オフィスワークでもリモートワークでも、同じ環境で快適に働くことができ、業務を可視化し、生産性と効率を高める方法」(NECソリューションイノベータ)、「従業員が出勤していた従来のオフィス環境をバーチャルにしたもの。〈中略〉コラボレーションや生産性の多くの部分を実現可能にする」(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)といったものだ。

写真1:米ガートナー バイスプレジデント アナリストのギャビン・テイ氏

 また、ChatGPTに聞くと、「現代の職場環境においてデジタルテクノロジーを活用して働き方を変革し、効率性や生産性を向上させるためのコンセプトやアプローチです」と回答した。

 筆者には今ひとつピンとこなかった。3年に及ぶコロナ禍に伴うテレワークの実践を経た現在、これらはユニークでも先進的でもない、ごく普通あるいは当然の「ワークプレイス=仕事をする場」に思えるからだ。規模や業態にもよるが、Web会議や社内SNS、ファイル共有、RPAなどのツールを使わない企業は少数派のはずである。

 そんな中、ガートナージャパンが2023年8月末に「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」を開催。(同社バイスプレジデント アナリストで、同イベントのコンファレンスチェアマンのギャビン・テイ(Gavin Tay)氏(写真1)に聞く機会があった。要約すると、単にデジタルツールを利用するだけでは不十分。デジタルならではの特性を生かして生産性を強化し、エンゲージメントを強化し、成果を創出するのがデジタルワークプレイス、ということになる。

──仕事に何らかのデジタルツールを使うのは今日、当然ですが、デジタルワークプレイスに定義はあるのでしょうか。見方を変えると「非デジタルワークプレイス」もある?

 50人に聞けば、50通りの答えがある問いかけです(笑)。なぜかと言えば、時の流れと共に進化してきているからです。この概念を提唱したガートナーとしては、3つの要素が本質であると考えています。デジタルデクステリティ(Digital Dexterity:器用さ、巧妙さ)、エンプロイエンゲージメント(Employee Engagement)、ビジネスアウトカム(Business Outcome)です。これらは並列ではなくて、ビジネスアウトカムを引き出す、押し上げるためにデジタルデクステリティ、エンプロイエンゲージメントを実現するという関係があります。

──うーむ、よく分かりません。ビジネスアウトカムを追求するのは企業として当然ですよね。そのためにデジタル技術を使うことやエンプロイエンゲージメントを高めるのも、今日では当たり前に思えます。デジタルを一切利用しないビジネスはほとんどないですから。ことさらデジタルワークプレイスを強調する意味はあるのでしょうか。

 その点についてより深く説明しましょう。デジタルデクステリティという言葉は、よく誤解されます。「デジタルを使いこなしたり、ビジネス能力を高めたりする意欲や能力」と捉えられ、多くの企業は一定レベルのデクステリティを備えていると考えがちです。しかし、我々の調査ではこれを備えている企業は調査対象の12%でしかありません。しっかり備えていれば、ビジネスアウトカムが3倍程度よくなる可能性があるのですが、実際のところ多くはそこまで行っていないのです。

──つまり、デジタルデクステリティは、デジタルリテラシーとはまったく違うものなのですね?

 違いますね。ガートナーでは5段階の成熟度を規定しています(図1)。大半の企業がデジタルテクノロジーを選択的に採用して利用しているレベル2か、よくてレベル3です。そこから組織全体としてのカルチャー変革を通じて仕事の結果がもっとよくなるような方向、よいデジタル技術があるのならどんどん取り入れていこうというアグレッシブな行動にしていく必要があります。

図1:デジタルワークプレイスの成熟度(出典:ガートナージャパン)
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 単にデジタルテクノロジーを使っている状態を超えて、使い方の質を常に高めていくようなカルチャーを形成する、それを通じて成熟度をレベル4やレベル5に高めるのです。注意する必要があるのは、デジタルばかりになりすぎるとか、むやみにデジタルが多くなりすぎてしまうと、逆に機能不全に陥ることです。例えば「頻繁に無関係な通知に悩まされている従業員は27%」という調査データがあります。バランスが重要です。

ハイブリッドワークとデジタルワークプレイスの関係

──そのバランスに関して、リモートとオフィスを使い分けるハイブリッドワークとの違いを教えてください。日本ではコロナ禍を通じてその取り組みが加速しましたし、欧米では以前から定着していると思います。ハイブリッドワークとデジタルワークプレイスの関係をどう捉えればよいのでしょう?

 多くの人はコロナ禍において強制的に自宅などで仕事をせざるをえなくなり、自宅で仕事をしながら時々オフィスで仕事をするスタイルが定着しました。それをサポートするデジタルツールも出てきました。ZoomやTeamsのようなWeb会議、オンラインホワイトボードなどがそうです。しかし、それでデジタルデクステリティが向上したかというと、そうではありません。先ほどの12%という数字は最近のデータですから。

 どういうことかというと、新しいツールを採用したのに昔ながらのワークスタイルを踏襲している企業や組織が多いのです。会議室や電話の代わりにWeb会議で議論したというような段階で止まってしまっています。デジタルテクノロジーを活用して従業員の生産性や業務能力を高めたり、新しいツールの機能や能力を引き出したりといった取り組みには至っていません。

 もちろんデジタルチャンピオンと呼ばれるような少し詳しいユーザーがそうでないユーザーに使い方を教えたり、Web会議の際に別のツールを使って共同作業したりすることはあるでしょう。しかし、そういったことが正式な仕組みにはなっていませんし、そもそもデジタルテクノロジーを使うのですから、同じことの置き換えではなく、もっと違うことができると思いませんか?

──リアルの会議をWeb会議に置き換えただけでは不十分というわけですね。では具体的にどんな取り組みが考えられるのでしょう?

 従業員が時間を割いて新しいツールの正しい使い方を、デバイスやサービスを含めて学び、デジタルワークプレイスへの理解を高めればアウトカムが違ってきますので、方法はいくつかあります。一例がカルチャーハック(Culture Hacks)です(図2)。企業文化に変化をもたらすのは難しいように思えますが、デジタルテクノロジーで簡単に変えられることもあります。Web会議の始めと終わりを明確にし、時間も30分に区切るといったことです。人が実際に集まる会議では難しくても、Web会議ならできるはずです。

図2:ガートナーが提唱するカルチャーハックの20項目(出典:ガートナージャパン)
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●Next:デクステリティ/エンゲージメント/アウトカムを高める方法

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