[技術解説]

「作る」から「使う」へ、エンタープライズ2.0がもたらす本質的変化(1)

進展するITコンシューマライゼーション

2007年7月12日(木)IT Leaders編集部

エンタープライズ2.0が「ウェブ2.0に影響を受けて進化する次世代の企業情報システム」だとすれば、これまでの企業情報システム、すなわちエンタープライズ1.0からエンタープライズ2.0へと何が本質的に異なってくるのだろうか。企業情報システムが直面している課題を踏まえ、エンタープライズ2.0 がもたらす本質的変化についてIT、ワークスタイル、情報の3つのポイントから見てみたい(図2-1)。


図2-1 エンタープライズ2.0がもたらす本質的変化

2-1 「作る」から「使う」へ

ITコンシュマライゼーション

エンタープライズ2.0の最も大きな本質的変化──それは「作る」から「使う」へのシフトである。その大きな原動力が、ITコンシュマライゼーション(情報技術の消費者化)だ(図2-2)。これは調査会社のGartnerが2006年11月に発表した「What’s Next with Web 2.0 and Consumerization?」というレポートで提唱されたトレンドで、消費者向けのITが企業に取り入られるようになってきたという潮流のことを指す。

例えば、アップルの音楽プレーヤーのiPod。ティーンエージャーがロックを聞く為のツールだと思っていたらそれは大間違いだ。Wall Street Jounalによれば、既に、National Semiconductor、Capital One、Siemensといった米国の大手企業が、iPodを活用した音声配信の仕組みであるポッドキャスティングを社内教育や社内通達の手段として活用、全社員にiPodを導入している。消費者向けに開発されたITが、企業の生産性向上に役立っているのである。


図2-2 ITコンシュマライゼーション

企業が消費者向けのITに頼りつつあるという流れは、iPodに留まらない。検索サービスGoogle、地図検索サービスGoogle Maps、IP電話サービスSkype、インターネット上の百科事典Wikipedia。既にこれらなしの業務遂行は考えられないだろう。このように消費者向け市場で生まれたITが企業向けに転用されていくという流れが、ITコンシュマライゼーションである。

そもそも、産業革命以降、世に送り出されてきた技術は、まず軍用・産業用に開発され、その後民間に転用される歴史をたどってきた。電信も、ジェットエンジンも、原子力も、もとをただせば軍用・産業用テクノロジーである。ITもその例外ではなく、世界で最初のノイマン式コンピューターENIACは、弾道計算や暗号解読を行う軍事用であったし、その後のコンピューターの発展の歴史は、IBMが「国際事務機」、富士通が「富士通信機」という社名であったことが分かるように、金融機関のオンラインシステムや電話会社の通信システムが原動力であった。インターネットも、もとは核戦争にも耐えうる通信システムの研究委託を米国国防総省からARPANETが受けたことが発端である。

消費者から生まれ、企業が従う

消費者向けに投入された最初のITは、PCである。1980年に入りAppleコンピューターが軍や企業が独占していたコンピューターの力を個人向けに解放すべく、個人向けコンピューター、すなわちパーソナル・コンピューターを世に投じた。当時、ドラッグ&ドロップやファイル・フォルダなどのGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)は、ホビーかおもちゃだと思われていた。

しかし、印刷業界やグラフィック業界が業務に使えるとPCを導入してから、次々とPCの企業向けの転用が進んだ。 PCの次に、消費者向けのITが花開いたのがインターネットと携帯電話である。このPC、インターネット、携帯の三つ巴がコンシュマライゼーションを牽引した。インターネットプロトコル、ウェブブラウザ、HTMLや携帯メールは、当初は消費者向け技術であったが、いまやこれらなしに企業情報システムは考えられない時代となった。

世界的に均質となったグローバル市場が、経済を突き動かす。伸び悩む企業の設備投資よりも、活気があるグローバル消費者市場を企業は魅力的と感じる。巨大なグローバル消費者市場に対して、次々と新しい技術が投入され、企業はその技術を利用せざろうをえない。今後、様々な技術がまず消費者向けに生まれ、それを次に企業が活用していく流れが加速していくのである。

IT中心から人中心へ

ITコンシュマライゼーションにより技術が一般消費者向けに投入されるようになると、IT中心から人中心へのシフトが発生する。これまでITは、情報システム部やITベンダーといった技術のプロフェッショナルが「作る」ための道具であった。「作り手」側の都合で作られたITの仕組みに、人が合わせるように強制されてきた。たとえ使いにくくても、楽しくなくても、利用者はITを文句を言わず、使わされていた。

しかしITコンシュマライゼーションが進み、ITは一部の技術者に限らず、ごく普通の一般消費者向けに提供されるようになった。普通の人たちが、携帯電話やiPodやブログやWikiといった最先端の技術をこともなげに使っている。ITは「作る」ための道具ではなく、「使う」ための道具となったのである。

「使う」ための道具は、それを「使う」人を中心に作られるべきである。もし「使う」人のことを無視した使いにくい、楽しくないITであれば、消費者はそっぽを向いてしまう。そこで、人がITに合わせるのではなく、ITが人に合わせて作られるようになる。これがIT中心から人中心へのシフトである。

人中心の時代では、これまであまり注目されていなかったユーザーの操作感が極めて重要になる。どれだけすばらしい技術かどうかよりも、どれだけすばらしい操作感を作り出すことができるかが、人中心の時代に求められるのである。

ITベンダーからエンドユーザーへ

こうした消費者の動きをITベンダーは止めることはできない。結果として、ITの購買意思決定におけるパワーがITベンダーからエンドユーザーへと移っていく。これまでの企業情報システムは、エンドユーザーのニーズを情報システム部門が要件としてとりまとめた上で、ITベンダーに発注していた。近年では情報システム部門のアウトソーシングが進み、製品や技術の評価もITベンダーが行うことが多く、エンドユーザーはITベンダーから与えられたシステムを使うしかなかった。

しかし、ITコンシュマライゼーションの進展に伴い、ITは直接エンドユーザーが理解できる形で提供されるようになった。その結果、「社内でもGoogleが使いたい」「情報共有にブログを使いたい」といった声が、エンドユーザーから直接あがってくるようになったのである。またエンドユーザーが勝手にITを活用し始めてしまうというケースも増えてきた。

例えば、ある証券会社では為替取引時のディーラー同士の瞬時の情報共有にオンラインでチャットやファイル共有を行うインスタントメッセージングツールが有効であるということになった。そこでディーラー各自が思い思いのインスタントメッセージングを勝手に導入して使うようになった。情報システム部門が調査したところディーラーの80%がすでに利用していることが判明し、いまさら禁止もできないので全社的に公式にインスタントメッセージングを導入することになった。このように、ITベンダーからエンドユーザーへのパワーシフトが「作る」から「使う」への大きな変化を物語っているのである。

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