[技術解説]

SaaS導入のポイント─金融機関2社におけるSalesforce導入の場合

2007年9月24日(月)IT Leaders編集部

SaaS(Software as a Service)は、外部業者が提供しているアプリケーションをネットワークを介して利用するサービスである。利用開始までの期間が短い点や、バージョンアップなどへの対応が柔軟に行える点、さらにインフラやアプリケーションの運用コストを抑えられる点など、これまでのアプリケーションの利用モデルに比べると利点も多く注目を集めている。今回は、SaaSの代表例ともいえるSalesforce.com(以下、SFDC)のCRMソリューション「Salesforce」を大手金融グループの金融機関2社に導入した事例から、SaaS導入の成果と課題、そして今後の展望について紹介する。

導入の背景

まず、今回紹介する2社の会社概要を次の表に示す。

表 会社概要
会社名
A社
B社
ユーザー数 約100人 約1,000人
導入範囲 国内営業部門、管理部門 国内営業部門、管理部門
主な導入目的

新規にSFA・CRMシステムを構築

・顧客属性管理
・顧客取引情報管理
・顧客別レポート作成
・顧客折衝状況管理
・社員スケジュール管理

営業案件のステータス管理

A社は、SFAやCRMといった営業系のシステムを新規構築するのにSalesforceを利用した。システム機能要件の検討に着手してから3ヵ月後には新システム立ち上げの必要があったため、あらかじめ基本機能が揃っており、プラットフォームも用意されているSaaS形式のSalesforceを利用して早期導入を目指した。

一方B社は、担当者が個別に各営業案件のステータス管理を行うためのツールはあったものの、管理者がそれらを吸い上げ、全体で把握できるような仕組みになっていなかったため、ここを強化するためにSalesforceを導入した。 両社とも、Salesforceの選択にあたっては、他のパッケージ製品やスクラッチ開発も検討したものの、最終的にSalesforceに決定したのは次のような理由が挙げられる。

  • 要件面はSalesforceでほぼカバーでき、初期構築費用・開発期間がパッケージやスクラッチ開発よりも少なく済む
  • 金融庁のガイドラインに準拠していることが説明でき、顧客データを外部センターに置くことによるセキュリティ上の心配がない

導入による成果

両社とも、Salesforce導入によって、大きく2つの成果をあげることができた。それぞれについて具体的に説明していく。

成果1:初期構築の費用・期間の縮小

A社の場合は、3ヵ月後には新システムが必要という条件もあったため、2ヶ月間で検討・カスタマイズ開発を行い、結果的にスクラッチ開発の場合の半分の費用で構築できたと見積もられている。これには、アプリケーション開発費用が少なく済むのはもちろんのこと、ハードウェア、ソフトウェアの導入費用や、インフラ構築の人件費がかからないという点も大きく効いている。

B社の場合は、パッケージ開発なら1年、スクラッチ開発なら1年半と見積もられていた開発期間が、Salesforceではキックオフから3ヵ月で一部ユーザーによる試行を開始するところまで進められた。これは、事前の要件検討で詰められた画面仕様をベースにして、その後の詳細打ち合わせで顧客ニーズを確認しながらチューニングを行えるという、Salesforceの柔軟なカスタマイズ能力が効果を発揮した。実際のところ、営業フェーズでのデモ(プロトタイピング)ですでに7割の画面仕様を決めて、その後特別なカスタマイズを行わないなら翌日からでもリリースできるといっても過言でないほど、迅速な導入が可能である。

成果2:自社内システム運用担当者の業務高度化

見落としがちな面だが、自社のシステム運用・保守担当者の業務負担軽減のメリットは大きい。SFDCのセンターにてシステム運用してくれるとはいえ、自社内に担当者がいらなくなるわけではない。しかし、その担当者はセキュリティのパッチ当てやアプリケーションのバージョンアップなどのシステム系の作業を行う必要はなくなり、ユーザーからの要件変更への対応など、業務面の要請からくる作業に特化することができる。Salesforceは、導入後でもデータ項目の追加といったカスタマイズが容易に行えるので、業務モデルフローの変更にいかにシステムを適合させていくか、いかにユーザーインターフェイスを向上させていくかという、自社内でしか対応できない部分の作業に集中できることは価値があるだろう。

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