IFRSの適用は、待ったなしの状況だ。システム部門は経理部門との協力の下、IFRSが求める会計処理と自社の現状と照らし合わせ、システム対応方針を早期に練り上げるフットワークが求められている。
IFRSの採用は、企業の情報システムに大きな影響を与える。会計基準の変更とはいえ、販売管理など会計以外の業務システムにも改修や追加が必要になるからだ。
ここで、その影響の大きさを示す欧州での調査結果を紹介しよう。欧州委員会が実施した調査によると、売上高が50億ユーロ(約6750億円)を超える欧州の上場企業がIFRS適用に投じた費用は、平均343万ユーロ(約4億6300万円)。このうち、ソフトウェアとシステム変更に要した金額は、平均56万4000ユーロ(約7610万円)に上ったという。その後の運用保守や追加開発費用を考えると、欧州の大企業はこれまでに、日本円にして数億円単位の投資を余儀なくされたと推測できる。
日本においても、IFRSが企業のシステムに多大な影響をもたらすことは間違いない。ただし、業種によってその範囲は異なることも事実だ(図5-1)。例えば、設備を多く保有する設備産業にとっては、固定資産管理業務への影響が大きい。
本パートでは、業種を超えてあらゆる企業のシステムに影響すると思われる「収益認識」「固定資産の減価償却」「財務諸表の表示」に関するIFRSの考え方と対策を考えたい(図5-2)。
項目 | 基準の差異内容 | システムに対する影響 | |
---|---|---|---|
IFRS | 日本基準 | ||
収益認識 |
|
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販売システム、在庫システムや会計システムなどの変更
|
有形固定資産 |
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固定資産システムなどの変更
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財務諸表の表示 |
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会計システムなどの変更
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売上の計上時期が変わる
IFRSに基づく会計処理を実施するには、販売管理システムに収益を分割計上する機能を追加する必要がある。例えば、保証期間のある電化製品についてはこれまで、製品保証に相当する売上対価は引当金として計上するのが一般的だった。しかし、IFRS適用後は製品本体と保証に関する売上を分割して計上しなければならない。このため、本体と保証の売上を分割計上する機能や、日割りや月割りなどで保証部分の売上を計上できる機能をシステムに追加するべきである。
加えて、IFRSに基づく会計処理は「検収基準」あるいは「納品基準」での売上計上が原則だ。日本で一般的な「出荷基準」での売上計上は、認められない公算が強い。
ところが、日本の企業は顧客が商品をいつ検収したか把握できていないケースが多い。そうした企業では今後、得意先から検収データを取得し、そのデータを基に売上を計上するよう業務プロセスやシステムを変更すべきである。検収データの取得には、EDI(電子データ交換)が有効である。EDIで取得する検収データは、売上計上だけでなく請求額の確定などにも活用できる。これにより、入金消し込み作業の効率化も期待できる。
客先への納品時に売上計上する納品基準を採用するとしても、やはり納品データの取得やシステム入力が課題となる。出荷から納品までに要する期間を保持する企業は、理論上の納入日に売上を自動計上してもよい。ただし、この方法を採った場合には、実際に納品がされたかを検証する何らかの仕組みが不可欠だ。
小売店やカード会社など、売上時にポイントを付与する制度を運用している企業は、IFRS適用にあたってポイント分の会計処理を変更する必要がある。ポイント制度を運用する企業はこれまで、ポイントでの購入に備えて引当金を計上していた。IFRS適用後は、ポイント付与分の売上については、消費者がそのポイントを利用して商品を購入するまで繰り延べなければならなくなる。このため、ポイント付与時の売上額を調整するほか、ポイント利用時に売上計上する機能が必要になる。
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