[インタビュー]
「Oracle Database 11g R2はクラウドに対するオラクルの回答だ」─米オラクルDB統括Mark Townsend氏
2009年11月24日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)
「高価な商用DBMSはもう要らない。オープンソースで十分」、「オラクルはクラウド時代に生き残れるのか?」。こんな声が聞こえる中、オラクルはどんな考え方、思いで11g R2の開発を進めてきたのか。統括責任者であるMark Townsend氏は「提供する価値を最大化するために、多くの顧客と意見交換してきた。品質向上についても延べ1500万時間のテストを実施した」「11g R2で強化したグリッド技術はクラウドと同じ」と語る。(聞き手は本誌編集長・田口 潤)
─ Oracle Database 11g R2では、RACやインメモリー処理、ストレージ管理など、さまざまな機能の強化・拡充が図られています。製品の企画/開発を統括する立場から見て、満足度はいかがでしょう。
とても満足しています。顧客に対して、より大きな価値を提供できるようになったからです。
従来から重点を置いてきたテーマですが、11g R2についても高可用性やセキュリティ、パフォーマンス、管理の容易性などについて、大幅な機能改善・強化を図りました。
中でも顧客にとって魅力があると考えるのは、ITインフラの大幅なコスト削減に寄与できる点です。11g R2を使うことで、データベース環境を1つのグリッド上に集約・統合できます。可用性や性能を向上させつつ、従来比で5倍のハードウェアコスト削減を期待できるのです(本誌注:グリッド=グリッドコンピューティングは、ネットワーク上にあるCPUやハードディスクなどの資源を結びつけ、仮想的に1つの複合したコンピュータシステムとして使えるようにする技術、または概念)。
─ 品質面はどうですか。特に日本のユーザーは品質を重視します。どれほど機能が優れていても、どれほど多くの機能があっても、不具合があると評価を落としかねません。
品質はリリースを重ねるごとに向上しており、11g R2ではさらに品質に磨きをかけたと自負しています。これを裏付ける取り組みとして挙げられるのは、徹底した負荷テストです。大規模なトランザクション処理や、大量のデータを処理するデータウェアハウス(DWH)関連の処理を想定した負荷テストなどを何度も繰り返しました。何しろ11g R2の累積テスト時間は、1500万時間にも及ぶんですよ。
─ なるほど。次に企画・開発段階についてお聞きします。まず11g R2の想定ユーザー企業や適用対象となるシステムのイメージ、言い換えれば“ペルソナ”について。盛り込まれている機能を見ると、大企業のミッションクリティカルな大規模システム、あるいは最近よく言われる“プライベートクラウド”のような用途を想定していると見受けられるのですが?
必ずしもハイエンド用途にターゲットを絞っているわけではありません。あらゆる用途で、開発から運用、保守までを含めたパフォーマンスを向上できるように機能強化を図るのが、我々の基本スタンスです。
というのも当社のDBMSは世界で最も多くの種類のアプリケーションで利用されており、用途もミッションクリティカルシステムから小規模で安価なシステムまで、本当に幅広いのです。具体的にいえばDBMSにおける市場シェアは約50%ですが、そのうち大規模システム向けは半分ほど。部署内での使用といった小規模用途での活用例もかなり多いわけです。
ただし、だからこそ大規模かつ高性能なハイエンドシステム向けの機能が必須になります。
具体的なメリットを示してアップグレードを後押し
─ RAC(Real Application Clusters)にしても、ASM(Automatic Storage Management)にしても、強化を継続した結果、かなり完成度が高まった印象があります。一方で、まだ足りない機能や、さらに強化が必要な機能を挙げるとすると、何があるでしょう。
具体的なお話をできないのが残念なのですが、1つ言えるのは、顧客が求める機能に関しては今後も継続的に投資することです。特にパフォーマンスや可用性、セキュリティ、使いやすさといった点については、改善を続けていくための資金や人的リソースを既に確保済みです。顧客やパートナーと緊密に連携し、どういった機能が求められるかを考えながら投資を続けていきたいと考えています。
同時に、顧客が現在所有しているデータベースの価値をいかに最大化するか、顧客と一緒になって考えていく必要性を強く感じています。
─ それは例えば、どんなことですか?
保守契約を締結しているのに、アップグレードをしないユーザーが少なくない点がその1つですね。古いバージョンを使い続けているため、最新のOracle Databaseの価値や能力を、最大限に活用できていないわけです。顧客が欲しいと思った機能が、実は最新バージョンで提供されていたということも、実際にあるんですよ。そういった残念な事態をなくすためにも、アップグレードの価値を広く啓蒙していく必要があると考えています。
─ 確かに日本でも「安定稼働しているので、アップグレードしない」というユーザー企業は少なくありません。しかしアップグレードには工数がかかりますし、システムが不安定になるリスクもあります。
アップグレードを容易にするための改善は、ずっと続けていますし、何よりも実際に経験した顧客には十分に満足してもらっています。逆に以前のバージョンを使い続けている顧客は、新しいハードやソフトの利点を最大限発揮できず、ITインフラからベストの価値を引き出せない。これは我々にとっても顧客にとっても残念なことです。
この問題をなくすためにも「アップグレード作業は大変でコストがかかる」といった悪いイメージを、変えていく必要があります。そうではなく、アップグレードをすれば可用性が高まり、管理が容易になり、セキュリティも高まるという理解を進めなければなりません。必要な作業はバージョンを重ねるごとに簡単になってきているので、メリットを理解してもらえれば、きっと顧客に満足してもらえるはずです。
顧客・パートナーの声をきめ細かく集約
─ そういったアップグレードに関する事柄も含めて、製品の企画や開発の過程でユーザー企業やパートナー企業からの意見集約、あるいは意見交換は行ってきたのでしょうか。
もちろんです。顧客やパートナーとは、絶えず意見交換しています。
─ 具体的に、どんな企業と、どんな方法で?
顧客は全世界で30万社以上ありますから、意見交換をしている企業の業種や業態、規模は多岐にわたります。そのために「アドバイザリーボード」という場を設けています。
DBMSだけでなく、アプリケーションなど他のオラクル製品にもこれがありますが、DBMSに関して言えばパフォーマンスやセキュリティ、高可用性、管理の容易性、DWH、DBMS全体といった分野別に、現在6〜7のボードを置いています。例えばセキュリティでは、金融機関や官公庁、政府機関の顧客がボードを構成していますし、大規模DWHの分野では、金融のほか小売・流通や通信業界大手などが構成メンバーといった具合です。
一方、管理の容易性のメンバーは本当に様々です。ミッションクリティカル用途で使用する企業から、ITインフラの規模は小さいものの、何千というDBを管理しなければいけない、という企業もありますからね。可用性に関するボードは、どちらかというと多国籍企業の参加が多いです。24時間365日、世界中にいる顧客にサービスを提供しないといけないからでしょう。
ボードはさらに地域別に分かれていて、例えばDWH分野では北米やEMEA(欧州・中東・アフリカ)といった地域別に分科会を設けています。今後はAPAC(アジア太平洋地域)の地域別ボードの設置も検討しています。
─ 日本のユーザーの声についてはいかがでしょう。
もちろん日本においても、顧客やパートナーの声を集める努力を欠かしていません。開発中のバージョンを利用して機能や品質を検証するベータ・プログラムには、三菱東京UFJ銀行をはじめとする顧客企業や、NECや富士通などパートナー企業十数社が参加。正式の発売前からの機能検証を通じて、様々な意見を頂いています。
─ ここで少し質問の角度を変えます。これまでのシステム構築では、様々なベンダーが提供する運用管理やストレージ管理、セキュリティ管理といったソフトウェア製品を、組み合わせて利用する「ベストオブブリード型」のアプローチが一般的でした。これを「水平分散型」とします。
11g R2ではDBMSそのもののカバレッジが広がり、多くをDBMSが担うようになりました。つまり「垂直統合型」になりつつあるように思えます。今後はシステムのミドルウェア以下の部分を、すべてDBMSがカバーするようになるのでしょうか。
今までのベストオブブリードのアプローチが、必ずしも良いものとは考えていません。個々の製品がベストだからといって闇雲に組み合わせてしまうと、管理が複雑になるだけでなく、例えば個々の製品のアップグレードを永遠に繰り返していかなければならないからです。こういった負担を避けるために、今後は垂直統合型製品へのニーズが増えてくると当社は考えています。
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