[海外動向]
Azure正式リリース、Silverlight4登場で現実化する「3スクリーン&クラウド」の世界
2010年1月6日(水)桑原 里恵(札幌スパークル システムコーディネーター)
米マイクロソフトのPDC(Professional Developers Conference)はプロフェッショナルの開発者を対象に、基盤技術の方向性や製品動向などを掘り下げて説明するイベントだ。現在の製品を使いこなすことではなく、「近い未来」を共有することに主眼がある。“When there is news”と言われる通り、PDCは数年に一度、不定期に開催される。今回のPDCは昨年のPDC期間中から開催が告知されていた。その前、2005年のPDCで「ソフトウェア+サービス(S+S)」の世界を提示し、昨年2008年にはAzureを中心とする製品ロードマップを発表。今回は製品開発の成果を披露し、リリースを伝える。
米マイクロソフトのPDC(Professional Developers Conference)はプロフェッショナルの開発者を対象に、基盤技術の方向性や製品動向などを掘り下げて説明するイベントだ。現在の製品を使いこなすことではなく、「近い未来」を共有することに主眼がある。
“When there is news”と言われる通り、PDCは数年に一度、不定期に開催される。今回のPDCは昨年のPDC期間中から開催が告知されていた。その前、2005年のPDCで「ソフトウェア+サービス(S+S)」の世界を提示し、昨年2008年にはAzureを中心とする製品ロードマップを発表。今回は製品開発の成果を披露し、リリースを伝える。
言ってみれば、「S+Sに向けた製品は揃った。さあ、アプリケーションを作り始めよう」と、開発者を喚起する場だ。実際、ブレイクアウト・セッションには、アプリケーションのパターンや開発技術に関するコンテンツが並んだ。「(S+SやAzureは)戦略やプレビューの段階ではない。現実であり、実践だ」という言葉が、今回のPDCを顕著に表している。
マイクロソフトが指向するアーキテクチャに「スリースクリーン&クラウド(Three Screens and a Cloud)」がある。今回のPDCで改めて強調されたメッセージであり、「S+S」を具現化したシステム像と考えられるものだ。
「スリースクリーン」は、PC、携帯電話、ゲームやテレビの3つの利用環境を指す。Webを共通項として、あらゆる利用環境から同じようにアクセスができ、あらゆるツールの統合利用を可能とすること。「Single User Experience」を実現するものである。
「クラウド(a Cloud)」は、ひとつの物理的なクラウド環境を指しているのではない。オンプレミス、プライベート・クラウド、パブリック・クラウドが混在した複数のバックエンド・システムが、あたかも「ひとつのシステム(クラウド)」であるかのようにサービスを提供すること、と理解すべきだろう。よって、「スリースクリーン&クラウド」は、「あらゆる利用環境」から環境の違いを意識せず、「あらゆるサービス」をバックエンド・システムの境目なく利用できることを意味する。
SilverlightにAzure「S+S」実現に出揃った製品
「スリースクリーン&クラウド」の世界を、企業と個人、大企業と中小企業といった対象の違いなしに、「ひとつの戦略」と製品体系で実現することが、マイクロソフトの方向性である。それに向けて、今回のPDCでは一通りの製品が揃い、正式リリースが明らかになった。
スリースクリーンを実現する環境となるのは、Internet ExplorerとSilverlight。Silverlightは次期バージョンSilverlight4のベータが公開された。「SilverlightにはRIAとMediaの2つの顔がある」が、Silverlight4では「Business Application」面の強化が著しく、映像などのMediaの技術を業務アプリケーションに取り込む可能性が見えてくる。
スリースクリーンの開発にはVisual Studio、デザインはExpression Studio。さらに、Office2010などのアプリケーションもスリースクリーンに対応する。
一方、クラウドを実現するのは、Windows AzureとSQL Azure。どちらも2010年1月の正式リリース、2月からの課金開始に向けて利用可能となった。OS階層はサーバー環境をWindows Server2008 R2、クラウド環境をWindow Azureが担い、これをひとつのSystem Centerが管理する。データベース階層は同じく、SQL Server2008 R2とSQL Azureが連携する形だ。
そして、アプリケーション層を担うのがAppFabricである。アプリケーション・ハブや認証など、オンプレミスとクラウドにまたがる基本機能を集約する。AppFabricはWindows Server向けのベータ1がPDCで公開された。来年にはWindows Azure platform用AppFabricのCTPが提供される。
他にも、開発者やパートナー向けのマーケットプレイス「Microsoft Pinpoint」と、その中でデータを公開するオープン・カタログ「Dallas」などが紹介された。クラウドのサービスを提供する人とそれを使ってアプリケーションをつくる人のために、サービスや技術リソースを流通する場である。
クラウドはSOAに続くアプリケーション・モデル
このように、今回のPDCでは目新しさは少ないが、新しいシステム像に向けた製品体系が整い、正式リリースが明らかになった。開発者やユーザー企業にとっての手応えは大きい。
そうした中で、企業システムの観点からもっとも印象的だったのは、クラウドを「新しいアプリケーション・モデル」として定義づけたことである。メインフレーム、クライアント・サーバー、Web、SOA。これに続く「第5世代」だ。
クラウドには元来、システム環境やアプリケーションを自社で持たず、社外で共有することによる価値がある。IT投資やリソースの効率化、アプリケーション実現の早さ、柔軟性…。こうした利点は認めた上で、さらに、アプリケーションから見た「クラウドならではの価値」を考えようというものだ。「S+S」による新しいアプリケーション像でもある。
ひとつには、「Service Oriented」や「Model Driven」のように、クラウドを使うために必須となる変化があり、それによる利点がある。もうひとつは、オンプレミスとプライベート・クラウド、パブリック・クラウドを組み合わせたコンポジット・アプリケーションによる変化だ。パブリック・クラウドを使う必然性と言える。
オンプレミスやクラウドといった複数の環境にシステムを配置する第一の理由は、データの所有と所在にある。そして、データを使った機能がある。パブリック・クラウドを連携することで、社内外のデータや機能を組み合わせたアプリケーションが実現する。
今日の事業は企業の垣根を越えて動いている。キーノートでは、米国政府の取り組みが紹介されていた。政府が公開する情報を自社のアプリケーションに組み込む。もちろん、政府だけではない。バリューチェーンに関係する企業間の情報もある。
また、共通性の高い機能をパブリック・クラウドを通して提供することで、個別企業のIT負担を低減することもできる。いわば社会基盤だ。マイクロソフト自身もOfficeなどの機能をサービスとして提供する。Excelの機能を組み込んだ独自のアプリケーションが実現する。
アプリケーションを通して技術をイノベーションにつなぐ
クラウドのサービスを組み合わせて、最小限の負担でこれまでになかったアプリケーションを実現する。新しいアプリケーションを生み出すことで、最新技術が事業のイノベーションへとつながる。アプリケーションが持つ力。新しいアプリケーションの開発に向けて、皆がアイディアを出し合うこと。PDCで得た最大のメッセージである。
このことはクラウドに限らない。Windows7の技術も同様だ。マルチタッチのスクリーンはアプリケーションにどう活きるのか。今はまだ、多くのPC環境が追いついていない。だからこそ、PDCの場でWindows7の機能にベストマッチしたPCが配られた。
新しい製品技術を普及するためにも、魅力的なアプリケーションが必要だ。これは同時に、製品間の統合が進んだマイクロソフトの強みを競争力へと顕在化することでもある。
OSや環境を提供することは、その上で動くシステムの思想と可能性に主導権を持つことと考えられる。統合化が進めば、より広範囲の技術を握る。
技術の価値はアプリケーションを通して具現化する。その意味では、個々の製品や基盤を見るだけでは、マイクロソフトが示すシステムの意味を理解するのは難しいかもしれない。同様に、クラウドを含む複数の製品を組み合わせたデザインや連携の技術がなければ、製品の価値を生かすことはできない。アプリケーションを担う開発者の役割は大きい。PDCのもうひとつの見どころはコミュニティの力にある。
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