2010年7月末〜8月初旬にかけて、米アドビシステムズ関連のニュースが相次いで飛び込んできた。まずは買収の話題から。7月29日、同社はスイスのコンテンツ管理ツールベンダーであるデイ・ソフトウエアの株式公開買い付けを開始したことを明らかにした。買収金額は約2億4000万ドル。
「Acrobat」「Photoshop」「Adobe Flash」「PDF」といったコンテンツ作成・配布ツールで高いシェアを持つアドビは、顧客ベースを拡大すべく、製品群の拡充を急いでいる。2009年10月には米オムニチュアを買収。同社のSaaS型アクセス解析ツール「SiteCatalyst」を手に入れた。
今回のデイ社買収も、こうした戦略の延長線上にある。「デイ社の技術を獲得すれば、コンテンツの作成、管理、配布、分析・最適化というサイクル全体を支援するためのフルコンポーネントがそろうことになる」(ワールドワイドフィールドオペレーション担当上級副社長であるマット・トンプソン氏)。
これに先立つ7月26日、国内ベンダーがアドビ製品の機能をSaaSで利用できる新サービスを開始するという発表があった。キヤノンITソリューションズの「PDFポリシーサービス」である。これは、アドビが持つDRM(Digital Rights Management)テクノロジーを利用し、PDFやOffice文書へのポリシー付与や利用権限制御、有効期限設定といった機能をネットワーク越しに提供するサービスである。サービス開始予定は12月。
実は、アドビ自体も自社製品のSaaS化を積極的に推し進めている。前述のSite Catalystに加え、Web会議やeラーニングといったWeb上でのコラボレーション機能を備える「Adobe Acrobat Connect Pro」のSaaS版をすでに提供済み。これらSaaSの年間売上高は、約5億ドルに上るという。トンプソン氏は「あまり知られていないことだが、当社はセールスフォース・ドットコムに次いで業界第2位のSaaSベンダーでもある」と胸を張る。
8月4日には、PDF閲覧ソフト「Adobe Reader」の次期版に組み込む新たなセキュリティ機能の概要を明らかにした。新機能の名称は「Protected Mode」。Adobe Readerとプラグインのコードを、Windows OSに影響を与えない隔離された環境で実行できるようにする。ファイルや共有メモリーへのアクセス、外部プロセス連携など、Windows OSへの機能呼び出しがブロックされるため、PDFに含まれる不正なコードを用いた攻撃を無効化できる。同機能を実装した次期版は、2010年内にリリース予定という。 (力竹)