[海外動向]

【米国クラウド最前線】大手銀行もクラウド参入 イネーブラーが躍進へ

インターネット/クラウドの最新潮流

2010年10月26日(火)山谷 正己(米Just Skill 社長)

米国では、クラウドがもたらすビジネスチャンスを逃すまいと、多くの新サービスやスタートアップ企業が生まれている。ここでは、今後の躍進が期待される「SaaSマーケットプレイス」「SaaSエスクロー」「クラウドイネーブラー」を紹介する。

非IT企業がクラウド参入─SaaSマーケットプレイス

SaaSの普及に伴い、そのマーケティングおよび販売チャネルが整ってきた。SaaSエクスチェンジ、SaaSディレクトリ、SaaSマーケットプレイスである。

SaaSエクスチェンジ

先進SaaSプロバイダといえども、1社が提供できるアプリケーションの種類は限られている。セールスフォース・ドットコムであれば中心となるのはCRM、グーグルにしても個人とチームの生産性ツールだけである。これでは、ユーザー数の拡大に限界がある。

そこで、SaaSプロバイダは数年前から、自社のサービス基盤上で提供する機能を拡充してユーザーを呼び込むため、外部の開発者による追加アプリケーションの開発を奨励。そうした追加アプリを業種や機能別に見やすく陳列するSaaSエクスチェンジと呼ぶWebサイトを運営している。

草分けは、セールスフォース・ドットコムが2005年10月に立ち上げた「AppExchange」だ。その後を追うのが、NetSuiteの「SuiteApp.com」である。2010年3月には、グーグルが「Google Apps Marketplace」を開設。登録アプリケーション数を急速に増やしている。

こうした主要SaaSプロバイダは、追加アプリを販売する場だけでなく、その開発環境までも提供している。いわゆるPaaSである。PaaSを提供することによって、SaaSエクスチェンジの品目はますます増えつつある。

開発者は、追加アプリをSaaSエクスチェンジに登録する際、そのSaaSエクスチェンジを運営するSaaSプロバイダにリスティング料を支払う。さらに、アプリケーションが売れた際には、販売手数料を支払う。販売手数料は通常、ユーザーが支払うサブスクリプション料の20〜30%。ユーザーからの料金回収は、SaaSプロバイダが代行する。

SaaSディレクトリ

複数プロバイダのSaaSを掲載するSaaSディレクトリが増えてきた(表1)。SaaSディレクトリとは、機能説明、価格といった基本情報に加えて、格付けやユーザーレビューなどを掲載するWebサイトである。いわばSaaSの商品カタログで、販売はしない。

表1 主なSaaSディレクトリ
表1 主なSaaSディレクトリ

このSaaSディレクトリにより、ユーザーはSaaSアプリケーションを機能別に一覧して比較検討できる。数あるSaaSの中から、自社の要件に合ったものを探し出す手間を省けるというわけだ。

SaaSマーケットプレイス

SaaSプロバイダ以外のサードパーティーが、多種多彩なSaaSを陳列・販売するサイトを「SaaSマーケットプレイス」と呼ぶ(SaaSディレクトリとSaaSエクスチェンジを含めてSaaSマーケットプレイスと呼ぶ場合があるので、注意されたい)。マーケットプレイスの運営者自体は、SaaSを提供しない。この点で、SaaSエクスチェンジとは異なる。

Bank of America(バンカメ)は2010年4月、「MyBusiness Center Solutions Store」と呼ぶSaaSマーケットプレイスを開始した。現在、「Cost Saving Suite」「Productivity Suite」「Sales & Marketing Suite」の3分野、合計21品目を販売している。

ITを本業としない同行の強みは、そのブランド力だ。バンカメは、世界各国に多数の顧客を持ち、資金力と技術力を兼ね備えている。そうした金融大手が販売するSaaSとなれば、ユーザーは機能や品質、安全性に高い信頼を置く。SaaSプロバイダにとって、その魅力は大きい。今後、同サイトにアプリケーションを登録しようというSaaSプロバイダが続々と現れるはず。非IT企業によるSaaSマーケットプレイスは、ITベンダーによるSaaSエクスチェンジの大きな脅威になるだろう。

アプリとデータを保全─SaaSエスクロー

「SaaSプロバイダが倒産あるいは吸収合併などでサービスを停止したら、データを放棄せざるを得なくなる」「そもそも、どこにデータがあるのか分からない」…。多くのユーザーが、SaaSを不安視する理由の1つとして、自社のデータがプロバイダのサーバーに格納されていて、手が届かないことを挙げる。こうした懸念を解消するのが、SaaSデータエスクローである。

エスクローとは、高額かつリスクが高い商取引の安全性を保証するための仲介サービスのこと。米国では、住宅を売買するとき、不動産業者とは別にエスクロー業者のお世話になる。SaaSエスクローは文字通り、このエスクローの仕組みをSaaSに応用したサービスである。

具体的にはこうだ。SaaSプロバイダは、ユーザー企業のデータをエスクロー業者のサーバーに定期的に転送し、複製を作成しておく。万一、SaaSプロバイダのシステムにトラブルが生じた場合、ユーザーはエスクロー業者からデータを引き揚げられる(図1)。

図1 SaaSデータエスクローの仕組み
図1 SaaSデータエスクローの仕組み

SaaSデータエスクローの仕組みを、アプリケーションのソースコードに適用するケースもある。SaaSプロバイダは、アプリケーションのソースコードをエスクロー業者に預けておく。もし、そのプロバイダがサービスを停止した際には、ユーザーはエスクロー業者からソースコードを入手。自社でそのアプリケーションを運用すれば、同じ機能を継続利用できる。

米国では、ソフトウェアエスクローやバックアップ、アーカイブ専業ベンダーが、好機到来とばかりにSaaSエスクローのサービスを掲げ始めた。EscrowTech InternationalやInnovaSafe、Iron Mountain、NCCグループなどである。SaaSプロバイダのバックアップ体制に加えて、こうしたエスクローサービスを利用することにより、ユーザーは安心してSaaSを利用できる。日本ではまだ馴染みの薄いサービスだが、その必要性に注目が集まる日は近い。

●Next:「クラウドイネーブラー」は何を提供する?

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