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[Special Report] 富士通のクラウド戦略を聞く(後篇)社内実践で培った経験を顧客向けサービスに生かす

2011年2月28日(月)

─自らの実践ノウハウを強みに─ IaaSからSaaSまでクラウドサービスをフルラインで用意し、本格的に事業展開する富士通。前回はクラウド戦略についての考え方を聞いた。しかしクラウドを提供するベンダーは一段と増加し、外資系クラウド企業の攻勢も激しい。一方でユーザー企業は、クラウドにまつわるリスクやコスト効果を冷静に見ている面もある。富士通は、シビアになる一方のユーザーの要望にどう答えていくのか、今回はこの点を中心に聞く。

クラウドサービスの活用で
様々な業務課題を解消

─ここで視点をユーザー企業に戻します。先進的なクラウド活用事例をいくつか教えて頂けますか。

阪井:わかりました。まず既存の業務システム基盤をプライベートクラウド化した、三井物産様のケースをお話しましょう。同社では運用するサーバーの台数が約1000台に達しており、運用管理に大きな負荷がかかっていました。これだけあると、どこかで何らかの障害が起きるんですよ。そこで仮想化によるシステム統合を推進し、まずサーバー台数を従来の1/2に削減。同時に、海外も含めたグループ企業全体にクラウド基盤を適用することで、業務システム基盤の標準化とコスト削減に成功しています。

─コスト削減はクラウドのもっとも分かりやすい効果ですね。

阪井:次に、実名はお話できないのですが、大手電機メーカーの業務改善活動に貢献した例をお話します。といっても難しい話ではありません。このお客様では、様々な経費に関わる情報を現場部門から集め、集計、配信することで、業務コスト削減を進めています。従来はこの作業をバケツリレー方式で行っており、約1000人月もの工数が掛かっていました。そこで一番手間の掛かる集約・集計作業を、Web経由で行うSaaSに移行。情報収集のスピードは格段に向上し、人手もまったく掛からなくなりました。ちなみに、このお客様はグローバル企業ですので、多言語対応などの仕組みも盛り込んであります。こういうサービスを短期間かつ低コストで提供できるのが、クラウドの利点です。

─なるほど。公的機関や自治体ではどうでしょう。

阪井:いろいろありますが、SaaSのメリットが生きたケースで、宮崎県で発生した口蹄疫被害への対応が挙げられます。この時は、急速な感染拡大で被害農家への救済手続きが繁忙化し、業務がオーバーフローするおそれがありました。そこで、富士通から宮崎県様に対し、ICTを利用した緊急の情報管理支援を申し出ました。具体的には、情報収集・統計業務向けSaaS「CRMate」を活用し、再建計画支援や防疫進行管理を実施しませんか、という提案です。すんなりと受け入れて頂き、支援着手から10日ほどでサービスを開始しています。

─さすがに幅広いですね。ところで、1つ聞いておきたいことがあります。本誌ではヤマト運輸グループのプライベートクラウド事例を取材しました(2010年10月号)。ヤマト側のデータセンターに富士通のサーバーを設置。プライベートクラウドの環境として「利用した分だけ費用を払う」という事例です。ヤマト運輸の方が、「クラウドは富山の薬売り」と仰っていたのが印象的でしたが、サーバーを提供したのに従量課金というモデルは、提供側の富士通にとっては厳しいのではないですか。

阪井:もちろん厳しいです(笑)。

─やっぱり(笑)。でも他のユーザー企業から同様の要望が来ることもあるでしょう?

武居:ヤマトグループ様の場合は、将来的な拡張の方向性も共有した上での取り組みだったので、提供に踏み切れた部分があります。「どれだけ使うかは分からないが、何とかしてくれ」と言われると、やはりそこは難しいですよ。

阪井:ただ、ヤマトグループ様のようなニーズがあることも分かったので、2010年11月に発表した「プライベートクラウドサービス」では、基本料金+従量課金のモデルをメニューに取り入れました。「利用した分だけ料金を」という従量制モデルは、時代の流れという側面もありますからね。個別のご相談になる部分もありますが、できるだけお客様のご期待に応えていきたいと思っています。

─率直なお話、有り難うございます(笑)。

富士通の描くクラウド活用イメージ
■富士通の描くクラウド活用イメージ。企業内だけではなく、社会システムを視野に入れている

導入実績に十分な手応え
社会インフラ分野への展開も

─そろそろまとめに入りますが、現時点でクラウド事業に対する手応えは?

阪井:これはもう十分な手応えを感じています。逆にここまで関心が高いとは思っていなかったほどです。たとえばオンデマンド仮想システムサービスですが、トライアルで導入頂いたお客様の約7割が、そのまま有償サービスへ移行されました。価格・品質の両面で、満足頂けたことの証だと感じています。

─今後の方向性を挙げるとすれば、グローバル化がその一つでしょうか?

岡田:そうですね、まずオンデマンド仮想システムサービスのグローバル展開に乗り出します。日本に加え、米国、オーストラリア、シンガポール、ドイツ、イギリスの5カ国で提供を始める予定です。

─なるほど。

岡田:一方でバイオや農業、公共、在宅医療といった社会インフラ分野へのクラウドの展開にも力を入れていきたいと思っています。すでに農業分野では実用化を進めており、農作物の生産履歴管理や作業支援にSaaSを活用するといったことを行っています。「スマートシティ」という概念がありますが、こうしたビジネス分野以外の領域へも積極的にクラウドサービスを広げたいですね。

─超大規模データ処理やID管理なども、今後の重要なテーマになりそうです。

岡田:そう思います。そこでオンデマンド仮想システムサービスを利用したストリームコンピューティングの検証を始めています。膨大なデータをクラウド環境に集めて分析すれば、新しいサービスが生まれる可能性がありますから。特に社会インフラ分野では、大きな可能性があると感じています。ID管理についても、将来的には「ID as a Service」的なサービスが求められるでしょう。こちらについても、しっかりと研究開発を進めていきたい。そう考えていくと、まだまだやるべきことは尽きないですね。

お問い合わせ

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