[市場動向]

ITプラットフォームの加速度的進化─クラウドシフトを支える要素技術の進化と融合

ザ・ナンバーズ Part3

2011年3月15日(火)鳥越 武史(IT Leaders編集部)

クラウドコンピューティングへの期待の高まりに呼応し、 足下を支えるハードウェアや通信環境の進化も急速に進む。 市場と技術革新の両面から、ITプラットフォームの進化を見る。鳥越 武史(編集部)

メインフレーム→クライアント/サーバー・システム→Webシステムという流れで進化してきた企業情報システムが、また大きな転換期を迎えている。言わずもがな、クラウドの台頭である。コンピューティングの中核機能を“ネットの向こう側”に任せるという基本概念は、ユーザー企業に「所有から利用へ」という根本的な発想転換を迫っている。

ITリソースを柔軟に配分・管理する仮想化技術の進展によるところが大きいのは事実だが、もっとプリミティブな部分では、プロセサやディスク、メモリー、ネットワークという要素技術の加速度的な性能向上が果たしている役割も大きい。これらはクラウドのみならず、企業システム全般の高度化に大きく寄与している。

基盤技術の進化
ハード・通信の急速な進化がITインフラ高度化を後押し

技術進化を示すいくつかの数字をみていこう(図3-1)。

図3-1ハードウェアや通信環境の性能進化の現状
図3-1ハードウェアや通信環境の性能進化の現状

プロセサの性能向上については、単体での動作周波数向上より、コア数を増加させることに重点が置かれるようになった。すでにインテルは8コア、AMDは12コアのプロセサを出荷しており、今後どこまでコア数が伸びるかが1つの見所だ。その関連において興味深い製品がある。米タイレラが2009年10月に発表した、100コアを搭載するプロセサ「TILE-Gx」だ。x86プロセサとは異なるアーキテクチャなので単純比較はできないが、さらに倍増させる計画もあるという。研究レベルではインテルやIBM、各国の工科大学などがすでに1000コアの実装を視野に入れている段階にある。

サーバーなどのメインメモリーとして広く普及する「DDR SDRAM」のデータ転送レートも世代を追うごとに向上している。半導体業界の標準化団体である米JEDEC Solid State Technology Associationが規定する標準値で見ると、2000年代初頭に登場したDDRのデータ転送レートは200M〜400Mbps、DDR2では400M〜800Mbpsに到達。現在主流のDDR3は800M〜2.133Gbps程度まで高速化した。2011年1月には韓国サムスン電子が世界で初めて、次世代規格であるDDR4製品を発表。サムスンが発表したDDR4製品のデータ転送レートは2.133Gbpsだが、将来的には4.266Gbpsまで高速化が可能になる。

ディスクの領域では、記憶媒体にフラッシュメモリーを利用する半導体ディスク(SSD)が注目株。2000年前半に登場した当時は8G〜32GB程度だった容量だが、2009年には米ピュアシリコンが1TBの製品を発表。SSDの要素技術の1つであるNAND型フラッシュメモリーは、1年で容量倍増のペースを持続していることから、今後もさらなる容量アップが期待できる。

企業システムの機動力を高める観点では、モバイル通信の高速化にも目が離せない。第2世代携帯電話規格「2G」であるPDCの9600bpsに始まり、PHSで32/64kbpsに、「3G」のW-CDMAでは下り384kbps、「3.5G」のHSPAでは下り7.2Mbpsにまで到達した。さらに下りで最大75Mbpsと、光回線並の速度を実現する「3.9G」のLTEでは、NTTドコモが2010年12月、「Xi(クロッシィ)」と呼ぶサービスを開始。その上を行く、最大で下り1Gbpsの通信速度を誇る「4G」のLTE-Advancedも控えており、今後も高速化は急ピッチで進む。

世界のクラウド市場
2014年には500億ドル規模へ

個々に革新を続ける要素技術が融合して相乗効果を生むと、情報システムにパラダイムシフトを引き起こす。そして今、我々はクラウド新時代の入り口に差し掛かっている。

そのクラウドは今後どのように発展していくのだろうか。足がかりとして、まずは現在の事業規模を知っておきたい。クラウド関連ベンダー各社の発表資料を基に、売上高を見てみよう。

代名詞的存在といえる米セールスフォース・ドットコムの2009年度の売上高は10億7700万ドル。2010年度には13億600万ドルに増加した。グーグルはどうか。クラウドサービス事業だけの詳細な数字は公表されていないが、同社のPaaS「Google App Engine」を含む「Other Revenuesセグメント」は、09年度が7億6200万ドル、10年度が10億8500億ドルである。米アマゾン・ドット・コムのクラウドサービス事業「Amazon Web Services」を含む「Othersセグメント」の売上高は、09年度6億5300万ドル、10年度9億5300万ドルという水準だ。

次に、米IDCが発表した「世界のクラウドサービス市場の売上高推移」に注目してみよう(図3-2a)。それによると2009年実績は約165億ドル。2014年には約555億ドルまで成長すると予測している。

図3-2a 世界クラウドサービス市場売上高推移
図3-2a 世界クラウドサービス市場売上高推移
出典:米IDC

この500億ドル超という数値は、どのような規模を示すのか。米ガートナーが発表した、世界の主要なITサービス企業の売上高(2009年)が1つの指標になる(表3-1)。上位10社はいずれも100億ドルを超え、トップのIBMが550億ドルである。つまり、2009年にIBMがITサービスとして1年間に計上した売り上げと肩を並べる規模にまで、クラウド市場が成長する可能性があるということだ。

表3-1 世界のITサービス企業の売上高ランキング 出典:ガートナー
世界ランク 企業名 売上高(億ドル)
1 米IBM 550.00
2 米ヒューレット・パッカード 345.85
3 富士通 233.04
4 米アクセンチュア 209.39
5 米コンピューター・サイエンシズ(CSC) 160.04
6 米ロッキード・マーティン 138.26
7 仏キャップジェミニ 116.34
8 NEC 113.72
9 NTTデータ 111.11
10 米サイエンス・アプリケーションズ・インターナショナル(SAIC) 108.45
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