[市場動向]

変化への対応力を今こそ高める─21世紀型システムの必然性

企業ITのグランドデザイン

2011年10月4日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

"In short, software is eating the world"──Webブラウザ「Netscape」を開発、現在はVCを経営しているマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)氏。この言葉の意味はさておき、IT Leaders読者の皆様、およびスポンサー企業の皆様にまず、お礼を申し上げます。ゼロからスタートしたIT Leadersが3周年を迎えられるのは、まさしく皆様のおかげです。これからもよろしくお願いいたします。

“ソフトウェアが世界を食べる”

冒頭の言葉に戻ろう。これは「Why software is eating the world」と題した寄稿記事の一節だ(8月20日付けのTHE WALL STREET JOURNALに掲載)。「米国はリセッションしているのではなく、すべてがソフトウェア産業に移行している。我々は産業全体がソフトウェア化する、大きな技術的、経済的シフトの中にいる。変化をリードするのは米国企業であり、したがって経済の先行きを楽観している」。これがAndreessen氏の主旨だ。

同氏は「10年前と現在で、同等のシステムを動かす費用は月額15万ドルと1500ドルの違いがある。ブロードバンドのユーザー数は10年間に5000万人から20億人に増えた。次の10年で50億人がスマートフォンを持つ。このような低コスト化と需要増大の結果、グローバル経済はデジタル化する」と続ける。具体例として、米国の書店業界、音楽業界などを例に、ソフトウェアを武器にした新興勢力が、既存大手を退場に追いやる事態が進んでいる様を描く。

まさしく”ソフトウェアが世界を食べている”わけだ。その上で「ソフトウェア化は、デジタルに乗りやすい産業だけではなく、通信や流通、製造など他の産業へと波及する」と説く。結果として生じる被雇用者数の減少を過小評価している点など疑問も残るが、「産業全体がソフトウェア化する」という大きな変化が進んでいるのは事実だろう。

ITが人の脳に変化を引き起こす

このような見えにくい変化は、ほかにもある。著名な評論家であるニコラス・G・カーが著書、「THE SHALLOWS─What the Internet is Doing to our Brains」(邦題「ネットバカ─インターネットが私たちの脳にしていること」)で指摘したことは、別の変化の例だ。

今や興味の向くままに次々とリンクを辿れば、短時間で知りたい情報が得られる。図書館へ行ったり、遠方の人に会いに行ったりする必要はない。想像力を巡らせてあれこれ考えるよりも、思いついた言葉を検索すれば答えが表示される。半面、1つのことをじっくり考えたり、自分で調べたり、時間をかけて何100ページもある書籍を読んだりする機会が消えつつある。そうしたネット(Web)を利用した情報活動が人々の思考や行動にどんな影響を与えるかを、丹念に論考・検証したのが同書である。

そのような情報活動が続けば、人の脳内のシナプス(神経回路)はそれに最適なものに変化し、定着する──。「個人的に深く考え発想する知識の耕作民から、電子データの森の狩猟民、採集民へと変わる。〜中略〜。コンピュータに頼って世界を理解するようになれば、我々の知能のほうこそが、人工知能になってしまう」(同書)。そんな人々の思考や行動パターンの変化が、大規模かつ広範な形で進行しているというのだ。身近な例で言えば、ワープロが普及したため漢字を読めても書けない状況は、日本人の多くが経験していることである。

21世紀型に向け、グランドデザインを!

これらの変化を加速させるテクノロジーが、クラウド、モバイル、ソーシャルの、いわば“CMS”だ。ビッグデータやオープンソースソフト、さらに半導体技術やネットワーク技術の進化なども、これに加わるだろう。

それではこれらによる変化にさらされる企業ITを、今後どのように進化させるべきだろうか? 表1を見てほしい。企業情報システムの姿を、20世紀型と21世紀型という切り口でまとめたものだ。多くの日本企業の情報システムは、今も20世紀型の特徴を強く反映している。「ITのことは外部の専門ベンダーに任せる」、「個別業務に最適化したシステム」、「いわゆるRASを最重要視」などである。競争相手が国内の同業他社であり、情報システムが業務の合理化・効率化を目的にしていた時代なら、これで問題はない。

だが、そんな時代は終わった。新興国の企業、国内外のネット企業、欧米の大手企業が競争相手であり、「ソフトウェアが産業を食べる」「ネットが人の脳を変える」時代において、これまでの延長線上、つまり既存システムに新規システムを追加し、連動させるやり方で対処できるだろうか?

ある程度はできるだろうが、いずれ限界に達し、ITが経営や事業の足を引っ張りかねない。それを避けるためにグランドデザイン、あるいはアーキテクチャをゼロから見直しし、変化対応力、使いやすさ、業務プロセス指向などを可能にする21世紀型システムへの移行が必要だ──これが本号特集の問題意識である。

実践する企業も出てきている。日産自動車は新しいアーキテクチャに移行するため2005年から5年かけて「BEST」と呼ぶシステム刷新計画を進めた。2011年度からは、「VITTSSE」と呼ぶ新たな中期計画をスタートさせている。また本号にも掲載したゴルフダイジェスト・オンラインは、システム刷新に当たって、グランドデザインを描き、将来の拡張性や柔軟性を担保する仕組みを実装した。

もちろん実践は容易ではない。(1)3,4世代にわたるレガシーシステムが現存する、(2)システム毎に基本構造が異なり、データ連携もプロセス連携もままならない、(3)保守運用費がIT投資の7割以上に達し、新規開発が思うように出来ない、といった悩みは多くの企業に共通する。しかもBCP(事業継続計画)の見直し、情報セキュリティの強化、IFRSや化学物質のような規制への対応など、直近の課題は目白押しだ。前述したCMSのうち「ITコスト削減に直結するクラウドは、活用を計画中。だがそれ以外は情報収集が関の山だ。それに予算も人材も足りない」──こういった企業が多いのではないだろうか。

何よりも、ユーザー企業の情報システムは、システム組織も含めて考えると文字通り千差万別で、すべてに通用するグランドデザインのひな形、あるいはアプローチ方法は存在しない。しかし、それでも何とかして実践に向けて、舵を切る必要があると筆者は確信している。複雑さを内包したままでは前に進めない。あるいは現在進行中の変化は、複雑さの先送りを許さないと感じるからだ。

(IT Leaders 編集長 田口 潤)

表 21世紀型への進化を求められる企業情報システム
表1:21世紀型への進化を求められる企業情報システム(画像をクリックで拡大)
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