[市場動向]

メガベンダーが2カ月に1社のペースでM&Aを進める理由

メガベンダーの買収動向

2012年12月21日(金)IT Leaders編集部

製品、サービスのコモディティ化に対するメガベンダーの危機感は強い。 常に新たな成長領域を開拓しなければ、後続ベンダーとの過酷な競争に飲み込まれてしまうからだ。 各社とも、“次世代”の企業ITのビジョンを描き、ポートフォリオの再編を急ぐ。

Cisco、Dell、EMC、HP、IBM、Microsoft、Oracle、Salesforce.com、SAP。これら大手ベンダー9社が過去3年間に買収した企業は、実に160社を超える。各社が2カ月に1社のペースで新たな企業を獲得している計算だ。

企業買収と言えば、顧客ベースの獲得や、売上高の拡大といったイメージが先行しがちだが、「外資系ベンダーにとっても、企業買収は決して楽な作業ではない」と各社の担当者は口を揃える。莫大な費用と人的コストが掛かる上、成功が約束されているわけでもない。成果を上げられなければ、株主からの批判にさらされる。

それでも、各ベンダーが買収という手段を選ぶのは、企業ITの製品戦略を考える上で、M&Aが必要不可欠な要素となっているからだ。「企業ITのテクノロジーはライフサイクルが短い。自社開発にこだわっていては、成長分野での主導権を逃してしまう」(セールスフォースの倉林陽シニアディレクター)。

彼らが技術獲得競争の先に見据えているのは、先進ユーザーの潜在的、顕在的なニーズに他ならない。それを知ることは、自社のIT戦略を考える上で有用なはずだ。以下では、各ベンダーの買収動向を俯瞰しよう。

ビジネスに密着した分野にシフト
コモディティ化からの脱却図る

ソフトウェアベンダーに顕著なのが、ビジネス課題に密着した製品、サービスの拡充である。データベースやアプリケーションサーバーなど、技術的に成熟した分野で、他のベンダーやオープンソースソフトと差異化するのは難しい。利益に直結する分野にシフトし、成長を維持したい考えだ。

例えば、IBMが過去3年で買収に最も力を注いだのが、“スマーターコマース”の分野である。調達やマーケティング、サプライチェーンなど、業務プロセスの各所にアナリティクスを組み込んで(=スマート化)、ビジネスのあり方を変革するものだ。企業間取引のプラットフォーム「Sterling Commerce」や、マーケティングプロセスの管理ツール「Unica」などを買収した。

一方、SAPは“ビジネスのリアルタイム化”を進める。インメモリー技術を使って、主力製品の「SAP ERP」の処理性能を強化、サプライチェーンや財務状況のリアルタイム可視化を実現する。モバイル端末からのアクセスをサポートし、時間や場所を問わない意思決定を可能にする。業務アプリケーションのクラウド化も進める。モバイル技術に強みを持つSybaseや、SaaSベンダーSuccessFactorsの買収は、こうした戦略を支えるものだ。

垂直統合型アプライアンスから、非構造化データの分析、ソーシャル技術の活用まで、“全方位”戦略を採るOracle。今後の注力を謳う分野の1つがカスタマーエクスペリエンスの分野である。顧客満足に貢献する、価格や機能以外の指標を管理する。eコマース分析/最適化ソフト「ATG」や、コールセンター向けCRM「RightNow」などの買収がそれだ。市場競争が激化する中、企業がライバルと差異化を図るため、同分野のニーズが高まると踏んだ。

ITインフラの高度化と保守・運用コストの削減を推進

一方、ハードウェアに軸足を置くベンダー各社は、大手企業やサービス事業者のデータセンターにフォーカスし、ITインフラの高度化に力を注ぐ。クラウド、ビッグデータ、モバイルといったテクノロジーの活用にはデータセンターの強化が必要となるためだ。ITインフラ全体のビジョンを描くことによって、利益率の低いハードウェア事業への依存を脱し、ビジネスチャンスの拡大を図りたいと考えるベンダーも多い。

過去3年間で最も目立った動きを見せたのがDellだ。Quest Softwareを初めとする運用管理ソフトベンダーや、シンクライアントベンダーのWyse Technologyなどを買収。インフラ構築に必要な資産を急速に膨らませた。

一時はソフトウェアやITサービスへのシフトを図ったHPも、業績不振やCEO交代などを受けてコア事業であるハードウェアに原点回帰。買収で獲得した、3Comのネットワーク機器や、3PARのストレージと、層の厚さに定評のある運用管理ソフトを活かす。

ハードウェアベンダーの中でも、技術獲得に長けた印象を受けるのがEMCである。傘下のVMwareが、ネットワーク仮想化で知られるNiciraを買収。サーバー、ネットワーク、ストレージ全ての仮想化技術を手中に収めた。データ活用の分野でも、DWH用データベースGreenPlumを買収するなど、成長分野を押さえる。

一方、ネットワーク機器大手のCisco。コンシューマやスマートグリッドなどの新分野開拓に注力する一方、ネットワーク仮想化には慎重の姿勢を見せていたが、VMwareの動きには機敏に反応。同じくネットワーク仮想化技術を持つvCiderを買収するなど、新たな動きを見せ始めている。

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