安倍政権は2013年6月に「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定した。今後、5年間で世界最高水準のIT国家となるための政府の取組みをまとめたものだ。では、活動は実際に進んでいるのか。それを議論するためのシンポジウムが12月初めに開催された。
安倍政権による「世界最先端IT国家創造宣言」(PDF)は、2013年のIT分野における重要なトピックの1つかも知れない。今後5年程度で、国民一人ひとりがITの恩恵を実感できる、世界最高水準のIT国家となるための政府の取組みをまとめたものだ。
具体的には、(1)ITを生かした新産業や新サービスの創出と全産業の成長を促進する、(2)健康で安心して快適に生活でき、かつ安全で災害に強い社会を実現する、(3)公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる、といった目標を掲げる。
これらを実現したとしても、さらに先を行く国がある可能性は高いので、“世界最先端IT国家”を創造できるとは限らない。それでも、全産業の成長や、安全で快適な社会の実現、公共サービスのワンストップ化は、とても重要な国策と言っていいだろう。
では、この宣言に則った活動は実際に進んでいるのか。何が課題で、先行きはどうなりそうなのか。それを明らかにしようというシンポジウムが12月初めに開催された。民間企業25社が運営するオープンガバメント・コンソーシアム(OGC)が開催した、「OGCシンポジウム2013~世界最先端IT社会実現に向けて」がそれだ。
結論を言えば、難問山積といえども課題は見えつつあり、政府(の一部)も本気であることが示された。有意義な内容だったと言えるだろう。問題は課題解決に向けた、取り組みや実行が伴うかどうかである。以下、同シンポを報告しよう。
世界で生き残れる大学は10校、背景にはMOOCがある
冒頭、あいさつに立ったのはOGCの会長を務める須藤修氏(東京大学大学院情報学環長・教授)。内容はあいさつのレベルを超え、産官学の中でも学の立場から見た問題意識が強くにじみ出たものだった。
「ITの進化による波は、想像を超えて社会に影響を及ぼしている。例えば教育分野ではMOOC(大規模オンラインオープンコース)によって、世界で生き残れる大学は10校程度になるだろう。そのほかは地域貢献大学になるしかない。世界トップランクの大学は米カリフォルニア工科大学だが、東大は10校に入りたい。そのためにITを武器にして環境工学や生命科学、都市工学などに手を広げつつある」。
大学といえども、ITが引き起こす”産業革命”と無縁ではいられないという問題意識だ。続けてこう語る。「もはや旧来の学問分野の垣根は、ITによって崩壊しつつある。ITなしに成立する学問はほとんどなくなり、焦点はITと何をくっつけるかに移った。環境や生命、農業がそうだ。ビッグデータがそれを加速する。我々は放送や医療を変えようとしており、例えば、8Kテレビを使った遠隔医療を呼びかけている。都市計画では道路の振動で発電し、事故のない人や環境に優しい街作りができる」。
IT企業への注文も忘れない。「米IBMはビッグデータ分析により、どこの土地を掘削すればシェールガスが出るかを予測するアルゴリズムを開発した。IT企業はこういう方向に向かうべきだ」。