[技術解説]

ロボット企業を相次ぎ買収した米Google、ビッグデータ活かした「スマートマシン」が視線の先に

2013年12月26日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

米Googleがロボット関連技術を持つ企業を次々と買収している。その背後にはどのような狙いがあるのか。視線の先にあるのが、ビッグデータを活かしたスマートマシンだ。

無人運転を組み合わせ、EC事業の物流を自動化

 ロボット技術とDeep Learningを基盤とするAI技術。これらを元にGoogleはどこへ向かおうとしているのだろうか?欧米メディアの論評で有力とされるのがEC事業である(例えばhttp://www.bbc.co.uk/news/technology-25212514)。Googleは2013年9月、サンフランシスコやシリコンバレー地域で「Google Shopping Express」というサービスを開始、EC事業に本格参入した。CostocoやTarget、Office Depot、Toys"R"Usなどの有力小売業と組み、各店舗の商品をGoogleのサイトで販売。原則として当日配送する。今のところ人手に頼るこのサービスを自動化するのが目的とみられているのだ。よく知られる無人運転車、「Google Self-driving car」もその最右翼だが、仕分けやパッキングなどの物流はロボットで自動化する。

 このEC事業の文脈でGoogleが視野に入れているとされるのが、Amazon.com。 Amazonは2012年初めに物流向けロボットの専門企業であるKiva Systemsを買収。物流網の効率化・強化に余念がない。2013年12月には「Prime Air Project」を公開し、4-5年以内には無人飛行機で荷物を届ける計画を公表した。これに対抗するのがGoogle Shopping Expressであり、それを無人運転車やロボット技術というわけである。

 しかし、Boston Dymamicsの軍用ロボットやGoogle Brainを知るにつけ、EC事業向けだけではオーバースペックに思える。例えば、Googleは2013年春にはNASA(米航空宇宙局)と共同でカナダのD-Wave Systemsの量子コンピュータを購入(/articles/-/10453)。実用化に向けたプログラム開発を進める。これを含めて考えると、Googleの視線の先には当然、高度な人工知能とそれを搭載するロボットがあるだろう。

欧米で本格化する人間の脳を模倣したシステム、日本はどうするか?

 現に米国では、DARPAがスポンサーとなり、米IBMなどが参加する「SyNAPSE」と呼ぶプロジェクトが進んでいる。SyNAPSEでは、15万のCPUと144テラバイトのメモリーを持つスーパーコンピュータに16億のニューロンと8兆8700億のシナプスからなるシステムを実装済み。「これは猫の脳そのもの、人間の脳の4.5%に相当する」(同サイト)。最終的には、100億のニューロン、100兆のシナプス、1キロワットの消費電力といったスペックのDeep Learning専用プロセサを開発する。IBMは、SyNAPSEを論理処理を主体にしたスマートマシンである「Watson」を補完するものと位置づけている。

 欧州でも「Human Brain Project(HBP)」が始動している。ICTと生命科学を融合し、2020年までに人間の脳に範をとったシステムの開発を目指す。そのためにまず6種のICTプラットフォームを開発する。Neuroinformatics、Brain Simulation 、High Performance Computing、Medical Informatics 、Neuromorphic Computing、Neurorobotics、である。

 では日本はどうか? ことロボット技術に関しては、世界でもトップを走ることは間違いない。産業用ロボットで世界的に高いシェアを持ち、ヒト型ロボット(ヒューマノイド)でも本田技研のASIMOや産総研の「未夢(ミーム)」は、それぞれ世界を驚かせた事実がある。

 しかしDeep Learning、あるいはITと脳科学の融合領域の研究は、欧米に比べ遅れているのが実情だろう。SyNAPSE計画には2009年から2013年までに103億円弱が投じられ、最終年度の2016年に向けてさらに積み増される。欧州のHBPは10年間で総額10億ユーロ(1400億円)以上を確保した。ところが日本では複数の大学や研究機関が個別にDeep Learningに取り組んでいる程度だ。

 せっかくのロボット(日本の場合、主にヒューマノイド)も、音声や画像認識と理解、思考力などのインテリジェンス(知能)がなければ、猫に小判。例えば、筆者は11月に情報処理推進機構が開催した「未踏交流会~ロボット特集」に参加した。その席上で産業技術総合研究所の梶田秀司氏や大阪大学大学院の石黒浩教授といった、日本を代表するロボット研究者は、異口同音に「日本に足りないのは知能ソフトウェアであり、その開発者だ」と語っていた。

 さらに余談になるが、経産省(当時は通産省)は1982年~1991年、国家プロジェクトとして「第5世代コンピュータプロジェクト」を実施した。COBOLなどの高級言語を第3世代、プログラムジェネレータなどを第4世代とし、自然言語理解や推論が可能なシステムを第5世代として、その開発を目指したものだ。総額570億円をかけたこのプロジェクトは、しかし大きな成果を得られずに終わった。プロジェクトの進め方にも問題はあったが、そもそも20年~30年前の技術では無理があったと言える(これは世界の他の国のプロジェクトも同じだった)。

 それ以降も情報大航海プロジェクト(150億円、2007年~2009年)、情報爆発プロジェクト(2005年~2010年)があった。だが、いかにも散発的だし、現時点では次世代スーパーコンピュータ開発を除き、新たな領域にチャレンジする国家プロジェクトは見当たらない。国立情報学研究所(NII)が産学連携で「ロボットは東大に入れるか」という目標を掲げた試みを推進している程度だ(http://21robot.org/)。しかし今こそ、脳科学とICTを融合させるべくトップクラスの人材を集めるなどプロジェクトの進め方を見直し、国家プロジェクトとして推進すべきだと思う。安倍政権は2013年6月、「世界最先端IT国家宣言」を掲げたのだから。

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