クラウド、ビッグデータの時代だからこそ、ハードウェアを進化させなければならない−−。こんな発想のもと、米HPやIBMが半導体やメモリー素子といったレベルでの技術開発を強化している。果たしてそれはどんなハードウェアなのか。そして勝算はあるのだろうか?
「クラウド、特にIaaS(Infrastructure as a Service)がある以上、ハードウェアはコモディティ(日用品)。もはや注意を払う必要はない」−−。そう考えている人がいるとすれば、それは必ずしも正しいとは言えない。急増するデータ量や電力消費の問題が、無視できないものになることは確実だからだ。
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何しろ、米HPによると世界中にあるデータセンター(DC)が消費する電力は世界第3位の経済大国である日本のそれとほぼ同じ(知っていましたか?、図1)。少子化や省エネ技術もあって、日本の電力消費は増加するよりも横ばいか減少と見られるが、DCは違う。世界各地で今も建設が続いている。個々のデータセンターをいくら省エネ仕様にしても追いつかない。
こうした状況をにらみ、HPや米IBMがハードウェア、それも半導体レベルの開発に力を注いでいる。HPは2014年6月に開催した自社イベントで次世代コンピュータの構想を公開。IBMは7月10日に、今後5年間で30億ドル(3000億円)をナノスケールの回路技術に投じると発表した。
いずれもまだ物語に近いが、それだけに夢があり、ITリーダーにとって知っておいて損はない。一体、どんな構想であり、どんな技術なのか、以下で紹介しよう。
HP、メモリー技術駆使による「The Machine」構想を披露
The Machine−−。HPが6月に開催したカンファレンス「HP Discover」で構想を明らかにした次世代サーバーのコードネームである。研究開発はHPの社内研究機関であるHP Labsが担っており、新しいメモリー技術や光配線技術などを用いて、既存のコンピュータの限界を打破することを狙う。具体的には「巨大なデータセンターを冷蔵庫並みのサイズにし、DCにつきまとうエネルギー問題を解消する」という。
目玉と言えるのが、「memristor」と呼ばれるメモリー技術だ。今日のコンピュータの記憶機能は、CPU並みの速度で動作するキャッシュメモリーと、電源を切ると記憶が消えるが相対的に安価なDRAMによる主記憶メモリー、電源を切っても記憶を保持する不揮発性メモリーによるSSD(Solid State Drive)や磁気記憶のHDD(Hard Disk Drive)といった階層構造になっている。
高速で安価(大容量)、しかも永続的な記憶といった相反する要求に対して、異なる特性を持つデバイスを組み合わせて対応しているわけだ。その副作用として仕組みは複雑になり、電力消費量が増大し、処理のオーバーヘッドも大きくなってしまう。
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これに対しmemristorは、電源を切っても記憶を保持する不揮発性素子であり、キャッシュメモリーよりも高速に動作し、高集積化を可能にする。もし、ビット当たり単価を安くできれば、記憶を階層化する必要がなくなる。つまりmemristorだけで、キャッシュや主記憶、補助記憶(SSD)を置き換えられるというのがThe Machineの基本構想だ。これをHPは「Universal Memory」と称しており、HP Discoverで試作モジュールを披露している(図2)。
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しかしシステム性能を高めるにはそれだけでは済まない。CPUとmemristor、あるいはmemristorと周辺回路を結ぶ回路も、進化させる必要がある。そのためにシリコンフォトニクス技術、つまり光ファイバーを銅線の代わりに使えるよう微細化する技術も開発する(図3)。コンピュータ内部だけではなく、当然、LANの一部も光回路で置き換える。
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メモリーや配線が変わると、OSも変えなければならない。既存のOSはキャッシュメモリーや、それよりスピードが遅いDRAM、SSD/HDDを上手く操作するように開発されているからだ。そこでHP LabsはThe Machine用に、memristorを生かし切るOSを開発している(図4)。Linuxから余分な機能を除いたOSと、AndoridベースのOSだという。
面白いのは、富士通製のスーパーコンピュータ「京」との比較だ。特定の構成で性能は5.5倍、消費電力は80分の1と見積もっている。
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