ネットワーク機器で世界最大手の米シスコシステムズが、日本の中小企業に向けた専用ブランドを用意し、さらに専用の製品を開発し、販売すると発表した。ブランド名は「Cisco Start」。いったいどんな製品なのか?
中小企業が情報化を進めるには何から着手すべきか? 会計システムや販売管理システムの話ではない。必要性が高いこうしたシステムはレベルはさておき何らかの形で導入されている。ここでいう情報化は、従業員のモバイル活用やWebサイトによる情報発信、顧客サービスの高度化、取引先との情報連携、さらにその先にあるIoT(Internet of Things)といったことである(図1)。
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冒頭の問に対し、米シスコシステムズはこう回答する。「デジタリゼーションの利点を享受する基本になるのはネットワーク、具体的にはルーターや無線LANだ。社員や顧客を結び、業務変革をサポートするには企業ネットワークがなければ話にならない。顧客体験の高度化もネットワークが基盤になる」(エンタープライズインフラストラクチャ&ソリューションズ担当副社長のジェフ・リード氏)。
ネットワーク機器ベンダーのシスコの主張だけに我田引水的な印象は逃れないが、間違いではないだろう。大企業では(無線LANを除き)当たり前なネットワークの整備も、中小企業では専門人材やIT予算などの面で不十分なケースが多い。そんな状況では、モバイル活用といっても携帯電話事業者の回線経由にならざるを得ないし、クラウド(IaaSやSaaS)を利用するにも支障があるからだ。
そこで同社の日本法人であるシスコシステムズは、「Cisco Start」という統一名称の下、従業員数が(おおむね)100人以下の中小企業向けに使いやすさや導入しやすさ(=価格)に工夫したネットワーク機器を発売すると発表した。中小企業に強い販売代理店であるダイワボウ情報システムの協力を得ているという。では、いったいどんな製品なのか?
Cisco Startの中身は、ルーターとスイッチ、無線LAN、セキュリティ・アプライアンスという4タイプの製品、およびそれらを組み合わせた推奨パッケージからなる。このうち設定項目が多く、導入の難度が高いルーターについては、日本の中小企業に合わせた専用製品「C841M Jシリーズ」を開発した(図2)。「シスコにとっても大きな機会があると考え、専用製品を開発した」(ジェフ・リード氏)。
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といっても製品名から明らかな通り、ベースは「Cisco 800M」という既存ルーター製品。セットアップウィザードや管理ツールのGUIを日本語化したり、日本で利用される3Gや4G用USBドングルを追加したりした。大したことがないように思えるが、日本語サポートは欠かせないし、開発投資もしている点は評価できるだろう。価格もオープンだが、最小構成で4万円程度と抑えている。
スイッチは「シスコ110/300シリーズ」、無線LANは「シスコモビリティエクスプレスバンドル」、セキュリティアプライアンスは「シスコASA5506-X」をラインアップしている。これらは既存製品と同じもので、Cisco Startの展開にあたって位置づけを改めたといった程度だ。推奨パッケージは25名、50名、100名と従業員規模別に、複数のルーターやスイッチ、無線LANを組み合わせたものである。
関連製品の販売は、ダイワボウ情報システム経由のほかNTT-xなどのオンライン販売サイトなど複数のルートで行う(すでに行っている)。Webサイトでの情報提供にも力を入れる。「Cisco Startに関わるすべての情報をWebサイトで提供し、ユーザー同士が意見交換する場としてコミュニティサイトも開設する」(鎌田道子同社マーケティング本部長)。
とまあ、一部に専用品があるとはいえ、有り体に言えば既存製品のエントリーモデルを中小企業に販売するためにリ・ブランディングしただけと言えなくはない。専用品自体も、日本で拡販するには必須の機能強化であり、Cisco Startの有無に関わらず、競争上、必要なことだろう。
それでもネットワークの問題が、中小企業における情報化の大きなネックの1つであることは確か。「なんとかしなければという使命感からCisco Startを企画した。C841M Jシリーズは日本の企業に向けて米シスコが開発に携わっている」(中島シハブ 同社専務)。これをきっかけにさらなる競争が起きることを期待したい。