[クラウド分解辞典−Microsoft Azureの実像に迫る]
SAP on Azureにみる基幹システムのためのAzure【第12回】
2017年5月22日(月)村上 愼一(アバナード クラウド事業統括)
米Microsoftが開発し提供するクラウドサービスである「Microsoft Azure」(以下、Azure)の全体像に迫る本連載。前回のIoTなど、これまではAzureの単一サービスに着目して解説してきた。最終回となる今回は、今後の企業におけるクラウド活用の方向性である基幹システムのプラットフォームとしての可能性に着目し、その1つとして独SAP製ERPをAzure上に実装するソリューション「SAP on Azure」を取り上げる。
一般的にERPなどミッションクリティカルで、かつOLTP(On-Line Transaction Processing)などのレスポンス性能に厳しい基幹アプリケーションは、パブリッククラウドのワークロードにはそぐわないと考えられている。これは、性能要件の話だけでなく、コンプライアンスやセキュリティに関する懸念も相まってのことだ。ただし、企業におけるパブリップクラウドの活用が進む中で、基幹アプリケーションのための環境も変化してきている。
Microsoft Azureにおけるその代表が、「SAP on Azure」である。Azureが提供するサービスを組み合わせて実現するソリューションだ。SAP on Azureを実現するために米Microsoftは多額の投資をし、上述した課題の解決に取り組んでいる。以下では、SAP on Azureを題材に、企業のIT部門が今後、パブリッククラウドをどのように活用すべきかを考えてみたい。
SAPのコア「HANA」データベースは仮想マシンには不向き?
ERPパッケージとしての独SAPの製品は長い歴史を持っている。だがSAPは2010年、ERPソリューションの大規模化・高速化に向けて、インメモリーデータベースの「SAP HANA」を投入。それを前提にパッケージの構成や機能を見直してきた。大企業向け製品の「SAP S/4HANA」のほか、中堅企業向けの「SAP Business By Design」、中小企業向けの「SAP Business One」が現在のラインアップである。
データベースのSAP HANAは、インメモリーのアーキテクチャーのため、使用するサーバーに求めるメインメモリーのサイズが大きく、数テラバイトということも珍しくはない。当然、データベースなのでI/O(入出力)要件も厳しい。クラウドが提供する仮想マシンは、ハイパーバイザー上で提供されており、CPU性能ならびにI/O性能の観点からは、ハイパーバイザー分のオーバーヘッドが加算される。複数の仮想マシンを利用するケースでは、ハイパーバイザーが仮想マシン間で調停を行うため、OLTPなどの処理には向かないとされている。
2017年5月時点で、Azureで最大の仮想マシンは、メモリー最適化シリーズの「G5」である。CPUは32コア、メモリー容量は488GBだ(参考資料)。2017年1月から日本リージョンでも使用可能になったものの、Controlled Releaseのため本番環境としての利用には制約があり、HANAのプラットフォームとしては十分とはいえない。
SAP専用マシンサービスとしての「Azure Large Instance」
もちろんMicrosoftも手をこまぬいているわけではない。SAPと以前から連携し、オンプレミス環境におけるSAPのERP環境をサポートした。2016年5月にはSAP主催のイベントで、両者の連携を拡張しAzure上での実装に向けたソリューションの強化を発表している。具体的には、(1)性能要件と拡張性要件、(2)可用性要件、(3)セキュリティ/コンプライアンス要件である(本取り組みの最新情報)。
その成果の1つが、「Azure Large Instance」だ(表1)。SAP HANAに最適化した専用のベアメタルマシンである。2017年5月現在、米国の一部リージョンのみで利用可能になっている。残念ながら日本リージョンでは使用できず、対応が待たれるところだ。
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