日本の一般的なサラリーマンが経費精算に要する生涯日数の平均は約52日。これは、月間の経費生産に要する時間の平均値である48分をもとに割り出した数字。その半分の26日は交通費の精算に費やしているという。経費精算クラウドサービスを提供するコンカーは、JR東日本および都内のタクシー会社3社と、共同実証実験プロジェクト「Suicaの利用履歴データを活用した近距離交通費の経費精算の自動化」を開始することを2017年9月25日に発表した。コンカーの三村真宗社長は「これが近隣交通経費精算の決定版になると確信している」と自信を見せている。
2017年10月からスタートする実証実験は、コンカー、JR東日本、日本交通、国際自動車、大和自動車交通の5社で行われる。JR東日本のICカード「Suica」の利用履歴データを、コンカーの経費精算クラウド「Concur Expense」と連携させて、経費入力業務の完全自動化を目指す。
SuicaやTOICA、ICOCA、SUGOCA、Pasmoなどの交通系ICカードは、チャージの上限が2万円のため、通勤定期以外では電車、バス、タクシーなどの公共交通機関を使った近隣の移動に多く利用されている。
多くの企業では、これら交通系ICカードで運賃を支払ったとしても、いつ、どこからどこまで、どの路線を使って移動したかをスケジュールと照らし合わせて調べ、インターネットの経路検索サービスで運賃を確認、企業の経費精算システムに手作業で入力するという、アナログな作業が行われている。
交通系ICカードには、利用履歴のデジタルデータが保存されているため、これを交通費精算の自動化に活用しようという動きがあった。コンカーもその1社で、ICカード情報をカードリーダーで取り込みコンカーのデータベースに蓄積、私用で使った分を取り除いて経費精算するサービスを2010年より提供してきた。
ICカードの読み取りについては、当初USB接続型のカードリーダーを使っていたが、金融機関などセキュリティポリシーの厳しい企業では、パソコンへのUSB接続が禁止されているところが多く、これが使えなかった。また、1人1台にカードリーダーが必要となり機器管理の手間が増えてしまった。さらに容量の問題で、ICカードには20件分の履歴しか保管されないという問題(20件問題)もあった。
まずコンカーでは、ネットワーク型ICカードリーダーを採用した。LANやWi-Fiに対応したネットワーク端末で、USB接続の問題を解消すると同時に、共有が可能なため機器管理の手間も大幅に解消された。しかし20件問題は解決できていなかった。
この20件問題を解決するために、JR東日本と提携した。Suicaで自動改札を通ると、乗車実績がSuicaのデータサーバーに飛ばされる。従来このデータについては、JR東日本の外のサービスとの連携が行われていなかったが、今回の提携により、必要なデータが自動でコンカーに転送されるようになった。Suicaのデータサーバーから直接データが転送されるので、20件問題は解消される。
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結果的にカードリーダーがいらなくなり、USB問題も機器管理問題も解消されたほか、従来必要だったカードリーダーへのタッチが不要となったことで、カード読み込みのために一度会社に戻ってくる必要がなくなった。
Suicaでは、提携の電車、バスは交通費として認識されるが、タクシー代は物販として処理される。このタクシー代についても、Suicaで車内決済を行えばコンカーに自動転送されて精算が自動化される仕組みを用意した。今回の実証実験に参加するのは都内大手である日本交通、国際自動車、大和自動車交通の3社。
大和自動車交通の前島忻治社長は「1万円を超すような長距離の客はクレジットカードを使う。Suicaはチャージの上限が2万円ということもあり、せいぜい1千数百円程度の近距離で使われることがほとんど。クレジットカードより手軽に使えるアイテムとして認識されている」との見解を示している。
実証実験は、2017年10月から2019年いっぱいを予定している。その間に、他のICカード事業者や交通機関との交渉を進めていき2020年以降、サービスをリリースする予定だ。