マイクロサービス、RPA、デジタルツイン、AMP……。数え切れないほどの新しい思想やアーキテクチャ、技術等々に関するIT用語が、生まれては消え、またときに息を吹き返しています。メディア露出が増えれば何となくわかっているような気になって、でも実はモヤッとしていて、美味しそうな圏外なようなキーワードたちの数々を、「それってウチに影響あるんだっけ?」という視点で、分解していきたいと思います。今回は、「MR(Mixed Reality:複合現実)」について取り上げます。
【用語】Mixed Reality(MR)
前回のデジタルツインとともに、ものづくりを変えるであろう技術がMR、複合現実です。現実空間と仮想空間を融合させて、機器や工場設備などの物理空間に実在するモノとサイバー空間上の仮想的なモノがリアルタイムで影響しあう新たな空間を構築します。NASAが宇宙空間における飛行訓練に採用したり、博報堂と京都の建仁寺がマイクロソフトのヘッドマウント型ディスプレイ(HMD)「HoloLens」を使い、国宝「風神雷神図屏風」の前に3Dで現れる宗達本人に作品を解説してもらうといった新たな鑑賞方法を共同開発するなど、職業教育やものづくり、医療、エンターテインメントといった幅広い分野で、再現が難しい環境での仮想体験を可能にします。
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【イノベーション】
先行する概念としてVR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)があります。VRは90年代からときに注目されてきたため、ご記憶の方も多いでしょう。VRは「仮想」の名の通り、現実にはない世界をサイバー空間に作り出します。これに対し一世を風靡した「ポケモンGO」に代表されるARは、現実世界にデジタルデータを重ね合わせ拡張したもの。2011年にサービス終了してしまいましたが、やはり一時期人気を博した「セカイカメラ」がわかりやすいでしょう。
MRはARと逆の仕組みで、リアル空間の情報をカメラやセンサー、スキャナー等で収集して画像化、さらにサイバー空間のCGと複合してサイバー空間に投影します。VRと異なるのは、サイバー空間上のオブジェクトを操作できる点です。バーチャルな建物の周りを動き回ったり、製品や工具、あるいは文化財等のオブジェクトを分解したり組み立てたりできます。MR空間に展開された世界は、電子データとして保存も共有も可能なので、デザインや設計のシミュレーション、工場や工事現場での作業に対する監視や遠隔指示、また医療教育などへの応用が期待されています。
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いずれのリアリティも基本的には視覚、聴覚から体感させるため、デバイスは没入度の高いHMDが主流ですが、ARについてはスマートフォンやタブレットのアプリも提供されています。アリババやGoogleから14億USドルを調達して注目を集めた米Magic Leapのデバイスは未だ明らかになっていませんが、やはりHMD状と憶測されています。今後触覚や嗅覚などより多くの感覚を司る技術が進化するにつれ、デバイスは多様化していくかもしれません。
Flexible Hybrid Electronics(FHE)の進展や3Dプリンティングのコモディティ化により、今後HMDに使われる素材はより柔軟になっていくと思われます。HMDのマスカスタマイゼーションが進めば、装着感も向上するでしょう。
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