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100年に一度のモビリティ革命期、異業種協調型でMaaSを推進─JR東日本

2019年2月8日(金)阿久津 良和(Cactus)

IoTやAIなど先端的なITの進展が導く第4次産業革命。とりわけ交通・運輸業界においては100年に1度の大変革期と言われている。そうした中、東日本旅客鉄道(JR東日本)は、オープンイノベーションの仕組みを取り入れながら「MaaS=モビリティのサービス化」に挑んでいる。公益社団法人企業情報化協会(IT協会)の年次イベント、第34回IT戦略総合大会の基調講演に同社取締役副会長の小縣方樹氏が登壇。取り組みの詳細を語った。

写真1:東日本旅客鉄道の取締役副会長で、IT協会の会長も務める小縣方樹氏

 JR東日本は以前より、鉄道のインテリジェント化と平行して、公共交通と連携した輸送システムを構築することでドアツードアの移動時間短縮を実現する「STTT(Shorter Total Trip Time)」を提唱してきた。

 だが、ここにきて、「交通機関の価値や地域社会、顧客へもたらす価値を訴求するためには新しいモビリティソリューションとの統合も必要」(小縣氏、写真1)となり、MaaS(Mobility as a Service)の構想が具現化に向けて動き出す。ファースト/ラストワンマイルに対して、カーシェアリングや配車サービスのUberなど新たなモビリティと連携することで、一貫輸送と真のSTTTを実現していくというビジョンを打ち出している(図1)。

図1:既存のSTTTモデルとモビリティソリューションの融合で移動時間を大幅に短縮する(出典:東日本旅客鉄道)
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モビリティの将来を見つめてMaaSに着手

 JR東日本は2兆円規模の鉄道事業、1兆円規模の生活サービス事業のほか、電子マネー事業、車両製造事業、海外事業といった事業領域を持っている。2018年にはグループ経営ビジョンとして、人を起点に新たな価値を創造する「変革2027」を発表。人口減少などに代表される社会構造の変化や多様化を踏まえ、「すべての人の生活における『豊かさ』を起点とした社会への 新たな価値の提供へと『価値創造ストーリー』を転換する」ことを表明している。

 1987年、日本国有鉄道の民営分割化で法人化した同社だが、当初運用していた情報システムはSMIS(新幹線情報管理システム)やCOMTRAC(新幹線運転管理システム)など3つにすぎなかった。約30年を数える現在は、顧客利便性を向上させるためのサービスを中心に1224まで増加。また、分割当初は組織の大半を分社化したが、「10年前から頭脳の部分を引き戻し、技術イノベーション推進本部を昨年2018年に発足」(小縣氏)して、同社本体から数々のイノベーションを創出する体制を整えている。

 小縣氏はイノベーションの例をいくつか挙げる。例えば、1987年の営業開始当初における新幹線の速度は240km/hだが、現在は360km/h。試験速度では400km/hに達している。車両運用の見直しでは、混雑率が1989年の202%から2017年の163%まで改善しているという。

 システムの効率化に伴い、社員数も1987年の7万人から2018年の4万人までスリム化。経営に対する補助金を受けずに、32年間運賃の値上げを行っておらず、「この話をすると英国や米国の人々は必ず驚く」(小縣氏)という。

 「イノベーションがなければJR東日本はマイナス。存在すらしなかった」と小縣氏。先端的なITを活用したイノベーションも多く、代表例がおなじみのICカード乗車券「Suica(スイカ)」だ。ソニーが開発したFelicaとの融合で生まれたSuicaは、2006年に携帯電話、2011年にはスマートフォンに「モバイルSuica」として実装され、さらに2016年以降はApple PayやGoogle Payなどのモバイル決済に対応し、進化を続けている。

●次ページ:異業種協調型MaaSを推進するJR東日本の狙い

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