東北地方最大の都市であり、「杜の都」として知られる仙台市。同市では、迫り来る人口減少と行政業務の複雑化・高度化の中で、将来にわたって住民サービスの質を維持・向上させるためにRPA等新たな技術の積極的な利活用に着手。その一環として2018年10月から、業務自動化ソリューション「ipaS(アイパス)」などによる半年間のRPA利活用の実証実験を行い、最大で95%という目ざましい業務削減率を達成した。2019年度は組織体制の強化を図るとともに、実証実験の成果を踏まえてすでに一部業務でRPAを導入した同市では、全庁への展開も視野に入れた、具体的なプラン策定に向けた動きを始めている。
ICT利活用の具体的ツールを検討、RPAの有効性に着目
今回の実証実験に先立ってRPAに期待したのは、大きく「業務時間の削減」と「正確な事務処理」の2つだったと、まちづくり政策局 情報政策部 部長 利(かが)大作氏は語る。この背景には、日本の自治体を取り巻く時代の変化がある。中でも少子化による生産年齢人口の減少は深刻だ。
「仙台市の人口は、推計によると2020年頃をピークに減少に転じると見込まれ、税収が減る一方で、社会保障費やインフラの整備・維持管理コストがふくらんでいくと見込まれています。一方では、行政事務の複雑化・高度化も急速に進んでいます。より効率よく、かつ高品質な住民サービスを維持・向上させていくための、新たな仕組み作りが求められているのです」(利氏)。
こうした要請を受けて、仙台市では2018年度に、ICT利活用のための方針を見直し、2019年度にICT利活用に向けた組織の見直しを実施。限られた庁内のITリソース=人材、時間、ツールを活用して、業務の効率化を追求していくための環境を整えた。まちづくり政策局 情報政策部 業務利活用推進担当課長 大関 守氏は、今回のipaSを使ったRPAの実証実験も、その一環にあると語る。
「新たな方針の実現には、より具体的な施策が必要です。そこでさまざまな報道やWeb サイトの記事を参考に、全国の自治体の取り組みを研究し、仙台市役所に最適なものを検討しました。その結果として、RPAの有効性に着目したのです」(大関氏)。
RPAの利用価値を見極めるため、ipaSを利用した実証実験に取り組む
だが具体的な実証実験の検討に着手した当初、まだ庁内にはRPAに関するリテラシーがほとんど蓄積されていなかった。そこで、今後直面していく人材不足や業務の複雑化・高度化の中で、どう業務の効率と品質を維持していくのか。課題認識を持っている部署の課長に一人ひとり声をかけるなど、地道な取り組みから始めたと、まちづくり政策局 情報政策部ICT推進課 システム最適化推進室 室長 佐藤 斉氏は振り返る。
「総務部門や財政部門などとも問題意識を共有し、議論を重ねた結果、『RPAは有力なツールになるのでは?』と考え実証実験に取り組むこととしたのです。そこで複数のベンダーに声をかけて、実証実験に協力してくれるところを募ったのです」(佐藤氏)。
名乗りを挙げた中に、デリバリーコンサルティングもあった。今回の実証実験では、株式会社三菱総合研究所と株式会社アイネスが企画・開発・導入を手がけ、そこにipaSのベンダーとしてデリバリーコンサルティングが加わった。
ipaSを利用した実証実験を行った理由を大関氏は、「ツールそのものに対するこだわりよりも、まずはRPAを使ってみて特性などを見極めたいと考えていました。その点ipaSチームは、私たちの業務内容などをよく聞き取ってくれたので、実のある実証実験ができました」と語る。
実証実験の実施期間は、2018年10月1日~2019年3月31日の半年間。実験を主導する情報政策課(現・ICT推進課)や情報システム課を始め、財政課などの業務部門も合わせて6課の9業務が実験の対象に選ばれた。
最大95%の業務削減率を達成、全庁展開を視野に検討をスタート
実証実験の結果は、期待を裏切らないものだった。対象の9業務のうち6つの業務で、いずれも70%以上の業務削減率を実現。情報政策課(現ICT推進課)の「ウイルス対策ソフトのパターンファイルの更新確認」業務では、業務削減率92%をマークした 。それまでの年間所要時間が8,640分だったのが7,920分も減って、わずか720分に短縮されたのだ。
また財政課では「各金融機関の債権・債務状況とりまとめ」業務が、従来の720分から204分へ時間短縮され、削減率は72%に達した。
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財政局 財政部 財政課 主査 宮崎 槙太郎氏は、「財政課の仕事は忙しく、かつ数字を扱う業務が多いため、業務の効率化及び正確性の向上にRPAは活用できそうだと期待して実証実験に参加しました。まったく白紙の状態でしたが、事前ヒアリングから自動化のシナリオ作成、実際の稼働・検証まで、いろいろ提案をもらいながら順調に進んだ結果、この成果が得られたのをうれしく思っています」と語る。
一方、まちづくり政策局 情報政策部 情報システム課 主任 小野 一茂氏は、「今後、全庁に展開した場合、RPAは庁内LAN環境でも利用されるものと考え、庁内LANを管理する立場として、まず自分たちで使ってみようというのが実証実験への主な参加理由でした。その結果、大変満足のゆく成果を得られたと考えています」と評価する。
今回の実証実験の結果をもとに仙台市役所では、すでに一部の部署で正式にipaSを導入。
「RPAの導入過程では、シナリオ作成のために従来の業務の見直しや標準化を行います。この取り組みを通じて、RPA が役所の業務のBPR推進に新たな気づきを与えるツールになることを期待しています」と語る利氏。実証実験の成果を足がかりに、将来的な全庁展開を視野に入れた検討を、2019年度から開始したという。仙台市のICT利活用に向けた歩みはさらに大きく前進してゆく。
【ユーザー プロフィール】
仙台市役所
所在地:宮城県仙台市青葉区国分町3丁目7番1号
職員数:14,465名(2019年4月時点)
事業内容 自治体業務
URL:https://www.city.sendai.jp
【お問い合わせ先】
株式会社デリバリーコンサルティング
Tel:03-6683-4474
URL:http://www.deliv.co.jp