[市場動向]

NECと大阪大学、ゲノム情報をプライバシー侵害リスクを抑えて解析可能に

2019年7月24日(水)IT Leaders編集部

NECと大阪大学の大学院医学系研究科 中谷明弘特任教授(常勤)らのグループは2019年7月23日、「秘密計算」をゲノム解析システムへ適用する実証を行ったと発表した。解析者が自らの解析手法を秘密計算化できるツールが実用レベルにあることと、計算処理自体も実用レベルの高速性を持つことを確認した。これにより、プライバシー侵害のリスクを抑えてゲノム解析を行うことが可能となった。

 近年、個人のゲノム情報に適した効果的な薬を開発するため、ゲノムと疾病の関係を解析するゲノム解析が活発化している。しかし、解析で使用するこれらのデータは機微性が高い個人情報であるため、医療機関や研究機関間で共有することは容易ではなかった。

図1:ゲノム解析に適用した秘密計算技術の概要(出典:NEC)図1:ゲノム解析に適用した秘密計算技術の概要(出典:NEC)

 秘密計算では、データを秘匿したまま様々な演算処理ができる(図1)。このため、複数の医療・研究機関が、ゲノム情報や疾病情報を秘匿した状態で結合解析できる手段として期待している。しかし、従来の秘密計算は、複雑な処理により計算速度が極度に遅く、開発が容易ではないため、ゲノム解析への適用は困難とされていた。

 NECと大阪大学は今回、大阪大学が行っているゲノム解析に秘密計算を適用し、安全なゲノム解析が実用的な時間で実行可能であるかについて実証を行った。NECが開発した技術を用いて、3台のサーバーへの秘密情報の適切な分散配置によって、暗号化したまま高速に処理できるようにした。

 複数の医療・研究機関が保有するゲノム情報や疾病等に関する情報を統合して解析する解析アプリケーション「DSビューア」に、NECの秘密計算を適用した。複数の医療・研究機関が保有するゲノムや疾病等の情報を秘匿したまま収集し、ゲノム変異の頻度を解析した。さらに、プライバシー侵害が起こらないように、集計値が一定数以上の場合のみ、その集計結果を開示する処理を行った。

 この結果、年代ごとのゲノム変異頻度の解析について、異なる複数の研究機関が持つ約8000人のゲノム情報を、約1秒で結合解析できることを確認した。ゲノムや疾病などの情報を、異なる研究機関間で開示し合うことなく、秘匿したまま結合解析することが、実用的な時間で実行可能になった。

 また、同実証では、大阪大学独自の解析アルゴリズムに対して、NECが開発した秘密計算の開発支援ツールを用いることで、専門家が1カ月程度かかる秘密計算の適用を、一般のシステムエンジニアが数日程度で完了できることも確認した。これにより、様々なゲノム解析への秘密計算の適用が可能になる。

 両者は、引き続き秘密計算をゲノム解析に適用する検証を進める考えだ。これにより、各医療機関・研究機関が持つゲノム情報と診療情報を患者のプライバシー情報を保護しつつ、互いに活用することを可能にし、個別化治療の研究を含めた先端医療の発展を支援するとしている。

 同時に、同技術を広く活用することにより、個人の生活情報や企業の機密情報などの様々な情報を、異なる業種や組織間で安全に結合解析できる基盤を提供していく。

 なお、同研究は日本医療研究開発機構(AMED)臨床ゲノム情報統合データベース整備事業 「認知症臨床ゲノム情報データベース構築に関する開発研究」(研究代表者: 大阪市立大学大学院医学研究科 森啓特任教授)の支援のもとで実施した。

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