人々には苦しい時こそ知恵を絞って幾多の逆境を跳ね返してきた歴史がある。コロナ禍しかりで、企業は目下、デジタルとデータの巧みな組み合わせで課題を解決したり、新しいサービスを創出したりすることに果敢に取り組んでいる。運輸業界をはじめ、データを事業価値へと昇華させることに飽くなき挑戦を続ける企業を強力に支えているのがSAS Platformだ。その特長や注目点についてSAS Institute Japanのキーパーソンに聞いた。
変革に向けて動き出した運輸業界の取り組み
コロナ禍においては、感染拡大抑止の観点から人々の活動に多くの制限がかけられることとなった。それは当然、様々な産業界に暗い影を落とし、とりわけ、従業員が現場に赴いて各種の作業を担うことが欠かせない運輸業界には大きな打撃を与えることとなった。
もっとも、すべて受け身で手をこまぬいているだけでなく、逆境に立たされたことをバネに大きく変わろうとする機運もある。アフターコロナの時代を見据え、単なる合理化とは一線を画し、「デジタル × データ」のポテンシャルを最大限に生かした課題解決、ひいては事業構造改革につなげようとする動きだ。
この業界に詳しいSAS Institute Japanの長澤秀樹氏(ソリューション統括本部 運輸・社会サービスインダストリーソリューショングループ Pre-Sales Technical Architect)は、直近で見られた興味深い動きを次の4つの観点から紹介する。
コロナ対策:鉄道会社において、ソーシャルディスタンス確保の一助となる混雑予測機能をアプリに搭載する動きが起こっている。飲食やアパレルなどのECへの新規参入による荷物の急増を受けた物流会社では、データを活用した効率的な配送計画やドローン輸送などの検討を熱心に進めている。
業務効率化/コスト最適化:鉄道・航空会社は、コスト削減に向けた設備メンテナンスの効率化の実現に向けた取り組みを強化している。鉄道会社における終電時刻の繰り上げや、航空会社における大型機撤退などもその一環だ。
事業構造改革:航空会社は顧客データを使った旅行事業や観光事業の強化に向かっており、鉄道会社は時間帯別運賃(ダイナミックプライシング)の検討を開始している。また、不動産などの異業種でもMaaS(Mobility as a Service)への取り組みが活発化しており、Smart Cityの今後の発展にも目が離せない。
ESG(環境・社会・ガバナンス):鉄道会社は水素燃料やEVを鉄道やバスに活用し、2050年にCO2排出量「実質ゼロ化」に挑戦している。今後、政府のカーボン・ニュートラルの宣言を受け、運輸業界でも各エネルギー設備の監視や大気汚染モニタリングなどの取り組みが必須になると考えられる。
データドリブンで運輸の現場が変わる
こうした最新動向からも見て取れるように、運用業界におけるデータ利活用を軸としたデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みは、今後ますます加速していくことになるだろう。そこで活用されるSASのソリューションは、データ分析やデータマネジメントなどの共通プラットフォームはもとより、その上に実装する需要予測、設備保全/検査、顧客、経営/リスク/人材といった業務領域の拡充が顕著だ。
1つの事例として長澤氏は、SASが鉄道会社に提供した混雑予測ソリューションを取り上げる。駅の改札口近くに設置した人感センサーなどのIoTデバイスから収集したデータをもとに、現在および少し未来(5~30分後)の混雑の状況を予測するものだ。
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長澤氏は、「SAS独自のリアルタイム混雑予測モデルに基づいた、エッジ環境上でのストリーミング・アナリティクスおよび個々の駅の事情に沿ったシミュレーション・ロジックを構築することで、このソリューションを実現しました」と説明する。
これにより駅職員は実際に混雑が起こる前に先回りして、利用客の誘導や整理、入場規制、改札向き変更、エスカレーター方向制御、運行調整などのオペレーションに当たることができる。また、この混雑予測情報をスマホアプリなどを通じて利用客にも提供することで、自発的な回避行動を促すことができる。三密をはじめ人々が1カ所に溢れかえることのリスクを未然に抑止することにつながるのだ。
それだけではない。この混雑予測シミュレーションは見方を変えれば需要予測のシミュレーションとしても活用できるのだ。長澤氏は「混雑回避という“守り”のためのデータ活用だけではなく、例えばエキナカの商業施設に適用すれば、人の流れを早期に検知して集中的に商品を配置するなど“攻め”のためにもデータを活用できます」と強調する。
さらに長澤氏が、運輸業界で欠かせないもう1つのソリューションとして取り上げるのが、設備メンテナンスにおけるデータ活用の事例である。
一般的に運輸業界における設備メンテナンスは、各設備の検査スケジュールと予算策定および需要を予測して部品調達を実施する「計画/調達」、実際の設備の「運転」、設備の検査を実施する「検査/メンテナンス」、実績と計画の比較分析(予実管理)および各重要項目を評価する「KPI管理」、予実乖離の原因分析と再計画(ローリングフォーキャスト)の「改善アクション」、この一連のプロセスを繰り返しライフサイクルとして行われている。そうした中でこれまで用いられてきたのは「TBM(Time Based Maintenance:定期保全)」の手法だ。
ただ、それでは問題のない部材も交換しなければならず無駄なコストがかかったり、急に異常が発生した際に対応が遅れたりといったデメリットがあった。そこで近年注目され始めているのが「CBM(Condition Based Maintenance:状態保全)」の手法で、何らかの異常を検知した際に、その箇所および影響を受ける範囲に先手を打ったメンテナンスを行う。TBMとCBMを組み合わせたハイブリッドな保全の手法を採用することで、安全と利益の効果を最大化することが期待できる。
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「SASは運転中の車両などの設備(エッジ)からデータを収集し、故障原因を分析し、予測モデルを作成・一元管理して設備にデプロイし、モニタリングおよびアラートを行うIoTをベースとした異常検知のほか、検査計画や部品在庫の最適化、ローリングフォーキャストによる経営管理の高度化にいたるまでトータルな設備保全ソリューションを提供し、データドリブンなメンテナンス業務を実現しています」と長澤氏は強調する。
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データ利活用をエンドツーエンドで支援するSAS Platform
SASはデータ利活用を強力に後押しするために必要なデータ管理、アナリティクス、ビジュアライゼーションを3つの軸とする機能およびソフトウェア群全体を包括した「SAS Platform」を提供しているが、まさにこの強みが運輸業界のDXにも生かされているわけだ。
「“データ管理”では、IoT基盤や各種データベース、PC内のファイル、Hadoop環境などあらゆるデータソースからデータを収集・加工し、分析のためにデータを準備します。準備したデータはBIツールなどで可視化したり、データ探索を行うことで今まで見えなかった気づきを得ることができます。さらにその先にあるアナリティクスを同じプラットフォーム上で一気通貫でスムーズに行えるので、思考を止めることなくデータ利活用の一連のプロセスを効率的に行うことができ、これがSAS Platformの特長となっています」と長澤氏は語る。
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最終的にはその成果物を業務システムに組み込むためのAPIなどを提供しており、作って終わりでなく、迅速に業務適用を行ってアナリティクスの一連のサイクルを高速に回すことができるのだ。
また、統計解析やデータマイニングのほか、機械学習および深層学習、前述した混雑予測(需要予測)を行う時系列予測、人材配置やメンテナンスサイクルの見直しなどで用いられる最適化手法、アンケートの分析や問い合わせ履歴から顧客の感情分析を行う自然言語処理、人の流れをモニタリングする画像解析などのアナリティクス機能も、同じSAS Platform上に実装して利用することが可能だ。
単にデータを一元的にハンドリングするだけでなく、各種のアナリティクスで知見を導出し、さらに実業務へ速やかに適用して試行錯誤をスムーズに積み重ねる。データサイエンティストから実務担当者まで、スキルやバックグラウンドが異なる人々が経験知を共有しながら密に議論・連携する──。そうしたことを一つのSAS Platform上で無意識に実現できるからこそDXの“礎=プラットフォーム”なのだ。運輸業界に限らず、SAS Platformを活用した先駆的事例に今後も熱い視線が注がれることになるだろう。
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