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[市場動向]

デジタル庁は”視界不良”、今こそグランドデザインが必要に

2020年12月21日(月)田口 潤、杉田 悟(IT Leaders編集部)

2020年9月に発足した菅義偉新政権が目玉政策の一つに掲げる「デジタル庁」。2021年9月の設置に向け、基本方針がまとまった。残念なことに中身をチェックすると、”デジタル関連施策”の権限を同庁に集め、過去20年かけてできなかった”IT政策”の実現を目指すというもの。言葉は悪いが、IT政策をデジタルと呼び変えただけにさえ見える。”デジタル”という概念に見合う、グランドデザイン(全体設計)が欲しいところだ。

デジタル庁、期待の一方で強い違和感

 「デジタル庁にはデジタル社会の司令塔となることを期待している」。2020年12月16日の記者会見で、電子情報技術産業協会(JEITA)の石塚茂樹会長(ソニー代表執行役副会長)はこう語った。この言葉に象徴されるように、2021年9月にスタートするデジタル庁への期待が高まっている。コロナ禍で露わになった日本の遅れを取り戻し、その上でデジタル先進国の仲間入りをする。そんな期待である。

 背景には、2001年にe-Japan戦略を打ち出して以降の過去20年間、政府や行政のIT化やデジタル化が遅々として進まなかった事実がある(図1)。2010年の「新たな情報通信技術戦略」、2012年の政府CIOの設置、2013年の「世界最先端IT国家創造宣言」、さらには2017年の「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」などを打ち出してきたが、実現したのはブロードバンド・インフラくらい。国際連合の電子政府ランキングでは、2020年は14位(前回の2018年は10位)に留まった。言ってみれば「電子政府の失われた20年」だ。

図1:政府のIT戦略の経緯(出典:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「政府におけるオープンデータの取組」)
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 そんな停滞を打開し、日本を「世界最先端IT国家」=「デジタル国家」にするべく新設される官庁なのだから、期待が高まるのも当然である。何よりも菅政権の看板政策の1つであり、2021年9月に予定される発足に向けて議論が急ピッチで進んでいる。

 だが議論の中を覗いてみると気になることがあり、そして強い違和感を感じる。①古びた仕組みをそのままに目に見える課題を解決しようとしている、②デジタル庁の議論なのに効率・便利を旨とするITの発想から抜け出せていない、③デジタル時代の国のあり方に関するグランドデザイン(全体構想)が不在でビジョンが見えない、といった点がそれだ。以下、これらを紐解いてみたい。

積み残してきたIT施策の挽回に終始するのが基本方針?

 まずデジタル改革関連法案ワーキンググループ作業部会がまとめた基本方針を紹介しよう。それによるとデジタル庁は、デジタル社会の形成に関する基本方針の策定などの政策を企画立案し、加えて国や地方公共団体などの情報システムを統括・監理する役割を負う。各府省の施策統一を図るために、「勧告権」を含む調整機能を持たせるとしている。ここで勧告権とは人事院や消費者庁、復興庁なども有している、他の省庁などに意見を提出できる権利のこと。縦割り打破のための権限の1つだ。

 デジタル庁が担う具体的な業務内容としては、7項目が挙げられている(表1)。①国の情報システム、②地方共通のデジタル基盤、③マイナンバー、④民間のデジタル化支援・準公共部門のデジタル化支援、⑤データ利活用、⑥サイバーセキュリティ、⑦デジタル人材の確保、である。詳細は表1を参照いただきたいが、これらの項目が違和感の大きな理由だ。デジタルという言葉が随所に散りばめられているものの、行政情報システムの整備方針や標準化といった既存システムの整備が、トップに掲げられているからである。

表1:デジタル庁の主な業務(デジタル改革関連法案ワーキンググループ作業部会のとりまとめ(案)を元に編集部が加筆)
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 例えば、約8000億円(2020年度)といわれる国の情報システム予算を、「デジタル庁に一括計上し、各府省に配分して執行する仕組みをめざす」(とりまとめ案)点。これだけ巨額の予算を詳細かつ適切に把握し、妥当性を審査するのは容易なことではない。それ以上に、デジタル庁という新設の組織が“デジタル化”を推進する旗印の下で行うべきことなのか、疑問が残る。各府省のシステムの標準化や相互連携性を確保するための事業を統括・監理するのも同様である。それもそのはず。これらは2013年6月年に設置された内閣官房情報通信技術総合戦略室(IT室)が、内閣情報通信政策監(政府CIO)の指揮下で担ってきたことだからだ。

 ただ、実はとりまとめ案では「IT室は、国の情報システムについて、一元的なプロジェクト管理を開始しているが、横串をとおした整備・運用を徹底するには至っていないほか、技術の進展により、国や地方公共団体相互のシステム連携基盤を構築する意義が高まっているが、そのための体制は整備されていない」と、この種の資料としては珍しく批判的に指摘している。

 一方、与党の自由民主党も「デジタル社会構築に向けた中間とりまとめ」と題した提言の中で、「政府CIOやCIO補佐官制度は見直して、デジタル庁にCIOやCTOを設置する」としている。これらを素直に受け取れば、IT室や政府CIO、CIO補佐官は目論見通りの成果を挙げていないので、デジタル庁に統合して出直すべきといった主旨になる。しかし、それは正しい方向なのか?

 単にデジタル庁とIT室を組織的に統合し、デジタル庁内のIT室が予算とりまとめや統括・監査を担うのなら組織編成の話に過ぎないと言える。しかしIT室を実質的に解体し、デジタル庁がIT室の役割を引き継ぐとなると、デジタル庁の負担は重くなる。過去の課題や問題(=技術的負債)を担わなければならないからだ。それ以前に、IT室が目論見通りに機能しない原因をきっちり究明するべきだろう。デジタル庁に勧告権付与した程度ではどうにもならず(後述)、それで何とかなるなら今のIT室に勧告権を持たせれば済む話である。

●Next:デジタル庁が本来やるべき“大仕事”とは?

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