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東北大学と富士通がウェルビーイング社会の実現を目指して提携、AIやデジタルツインなど先端技術も積極活用

2022年10月12日(水)神 幸葉(IT Leaders編集部)

国立大学法人東北大学(本部:宮城県仙台市)と富士通が、ウェルビーイング社会の実現に向けて戦略提携を結んだ。提携の下、東北大学病院が有する医療研究・データと、富士通のこの領域における技術・ノウハウを融合。予防、治療のシミュレーションを可視化するヘルスケア領域のデジタルツインの構築や、電子カルテの診療データなどのヘルスケアデータから病気の発症や重症化を予測するAI開発などの共同研究を行う。2022年9月26日の説明会から、提携の全体像を紹介する。

 今回の戦略提携の下、東北大学と富士通は、身体的・精神的・社会的側面において良好な状態にあるウェルビーイング社会の実現を目指す。提携の目的として、「一人ひとりが自身の目指す健康像に向け、自律的に健康増進や病気の予防に取り組むとともに、地域全体がさまざまな医療やサービスを有機的に提供し、運動不足や栄養低下などの連鎖により健康状態が悪くなるフレイルスパイラル(注1)の防止や早期治療の促進につなげる」ことを掲げている。

注1:フレイルは、病気ではないが、年齢とともに筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の状態のこと。フレイルスパイラルは、筋力の低下による移動機能低下などの「身体的フレイル」、うつ状態や軽度の認知症などの「精神・心理的フレイル」、独居や経済的困窮などの「社会的フレイル」の3つが連鎖することで老い(自立度の低下)が急速に進むことを指す。

 東北大学病院は、高度医療、先進医療に関する知見、デザイン思考を取り入れ、現場観察と企業専門家の視点からニーズを探索するプログラム「ASU」や、医療者とコンセプトやプロトタイプを検証する研究開発実証フィールド「OBL」といったプロジェクトを推進している。これらを、富士通の技術・知見や富士通Japanが提供する電子カルテシステムなど、同社グループのヘルスケア領域のインフラや業務ノウハウと融合して共同研究に取り組む(図1)。

図1:戦略提携で目指すウェルビーイング社会の実現(出典:東北大学、富士通)
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 提携に基づく具体的な施策として、予防、治療のシミュレーションを可視化するヘルスケア領域のデジタルツイン、電子カルテの診療データなどのヘルスケアデータから病気の発症や重症化を予測するAI開発などの共同研究を挙げている。

 今回の提携につながる取り組みとして、東北大学病院は、経営基盤の安定化や働き方改革、地域医療格差などの課題に対し、産学連携・AI/革新技術導入、未来医療実装、病院職員のウェルビーイング推進などで解決を目指す「スマートホスピタルプロジェクト」に2019年から取り組んできた。東北大学病院 病院長の冨永悌二氏(写真1)は、「患者に優しい医療と先端医療との調和、医療従事者にとってやりがいある勤務に専念できる環境づくりのためにさまざまな取り組みを進めているが、これらのビジョン実現には我々医療者だけでは限界があり、産学連携が必須」と富士通との提携への期待を述べた。

写真1:東北大学病院 病院長の冨永悌二氏

共同研究、人材交流で新たなイノベーションを実現

 東北大学病院と富士通の提携は大きく、「共同研究開発」と「人材交流、研究・開発施設の相互利用」で構成される。共同研究開発は次の3点の分野で行われる。

ヘルスケア領域のデジタルツインの開発

患者への最適な医療提供:診療データ、検査機器、ウェアラブルデバイスなどから得られる情報を基に、デジタルツイン上に患者像を再現する。そこに多様なリアルタイムデータが反映され、医師は、正確かつ迅速に患者の病状把握が可能になる。これにより、患者に対して最適な治療法や投薬計画、手術方針などを医師が判断する際の意思決定を支援する。

病院経営の効率向上:電子カルテシステムに蓄積された診療データに加え、病院スタッフの人事情報や勤務情報、財務情報、医療機器の稼働状況などの情報をデジタルツインに統合し、病床のリアルタイムな稼働状況の把握と将来のシミュレーションを可能にする。これにより、病院の日々のオペレーションやリソースの最適化、手術室などの医療施設の稼働率向上を実現する。

地域住民の健康増進や病気の予防:生活者一人ひとりの健康的なライフスタイル実現に向け、病歴や健康診断の結果、日々の生活状態から将来の健康状態を予測・可視化が行えるデジタルツインを開発する。これにより、自治体や健康保険組合と連携の下、地域住民全体の健康増進や病気の予防に対する行動変容を促進し、国民医療費の削減に寄与する仕組みづくりも推進する。

疾患の可能性を検知するAIモデルの開発

 疾患の可能性を示す微小な異変を診療データから検知するAIモデルを開発する。医療現場における効率的な診断支援を実現する。個人の日々の生活における食事や運動などのヘルスケアデータにもAIモデルを応用し、AIが健康状態の変化を検知し、医療機関の早期受診を促すなど、一人ひとりの自律的な行動変容につなげ、重症化防止を目指す。

 AIモデル開発には、同病院が1990年に電子カルテシステムの前身となるオーダリングシステムを稼働開始して以来蓄積してきた診療データをベースに同病院の専門医が携わり、富士通が提唱する、デザイン思考でニーズ探索から事業化までをつなぐ「ビジネスリエゾン人材」も参加する。

リアルワールドデータ活用に向けた基盤整備とデータアナリティクス手法の開発

 大量の診療データ、健診情報、日常生活のライフログ分析のための新たなデータ基盤の整備を推進する。集約されたデータを分析可能なデータに構造化して解析するデータアナリティクス手法を新たに開発し、社会課題解決を目指す。

 そこでは整備したデータ基盤を製薬会社、保険会社などのヘルスケア関連企業に活用してもらうことも計画。新たな医療サービスや製品の創出につなげ、得られた知見を再び病院や個人に還元するデータ循環型エコシステムを目指す(図2)。

図2:ウェルビーイング社会実現に向けたエコシステム(出典:富士通)
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 また、人材交流や研究・開発施設の相互利用の面で、新たな医療サービスの開発にも取り組む。上述の共同研究で開発した技術の社会実装に向け、東北大学と富士通の双方間での人材出向、研究・開発施設の相互利用、東北大学のインターンによる現場考察を実践する。加えて、東北大学病院が保有するASUを積極的に活用し、デザイン思考を取り入れた新たな医療サービスの開発を推進する。

 これにより、従来の技術や性能の向上を中心としたものづくりから脱却し、多様化した個人の価値観を起点とした人間中心の体験づくり(エクスペリエンスデザイン)を目指すとしている。さらに、医療知識とデジタル技術のスキルを兼ね備えた、次世代のデータサイエンティストやAIエンジニアなど、世界で活躍する次世代の多様な人材を育成し、ヘルスケア領域における新たなイノベーションに取り組む。

●Next:ヘルスケア領域から生まれるイノベーション─2030年に向かって両者が目指すもの

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