[市場動向]

NTTデータが考えるメタバースの可能性と課題─取り組みと今後の計画を紹介

2022年11月9日(水)神 幸葉(IT Leaders編集部)

将来、約8兆ドル(約920 兆円)まで市場規模が拡大するという予測もあるメタバース。日本を代表するITベンダーの1社であるNTTデータが、この旬のテーマにおける戦略と取り組みを公にした。同社が2022年10月26日に開催した説明会の内容から要旨を紹介する。

夢物語は現実へ、注目を浴びて広がるメタバース

 1992年、SF小説の中で登場した「メタバース」。現実と仮想の融合という概念は、技術の進化により、すでに夢物語ではなくなっている。

 例えば、1996年にオンライン上の仮想ショッピングモール「まちこ」を開始するなど、NTTデータは早期からメタバース関連の研究や取り組みを進めてきたベンダーの1社だ。2017年には筑波大学との共同研究で、ビジネス向けメタバースの開発を始めている(図1)。

図1:メタバースの歴史とNTTデータの取り組み(出典:NTTデータ)
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 NTTデータ 技術開発本部 XR/Identity エバンジェリストの山田達司氏(写真1)は、「メタバースは劣化した現実ではなく、人間の機能拡張の1つである」として、さまざまな領域に広がるメタバースのサービス分類を示した。

コンテンツ鑑賞:動画、音楽、文化財などのコンテンツ鑑賞
イベント開催:仮想空間での音楽ライブ、企業の商品/業績発表、人材交流など
ミラーワールド:現実の都市や店舗を仮想空間上に再現、実店舗の商品購入や観光名所の体験など
マルチプレイヤーゲーム:仮想空間上でゲームを通した交流。ユーザーが作成した空間でプレイ可能なゲームもある
不動産内覧:現実の建物を再現し、仮想空間で見学。3Dスキャニング技術と組み合わせたサービス
仮想オフィス/オンライン会議:オフィスを仮想空間に再現。会話やプレゼンが可能なミーティング機能を備える

写真1:NTTデータ 技術開発本部 XR/Identity エバンジェリスト 山田達司氏

 山田氏は、カナダの市場調査会社Emergen Researchが算出した世界のメタバース市場規模を示した。それによると、2020年度約476億ドル(約5兆5000万円)、2028年には約8289億ドル(約95兆円)にまで成長するという。また、米モルガン・スタンレーが2021年10月に発表したレポートも紹介し、そこでは将来、メタバース市場は約8兆ドル(約920兆円)まで拡大する可能性があるという(関連記事:急伸する国内メタバース市場、2026年度には1兆円超規模に─矢野経済研究所)。

 山田氏は、ここまで市場規模が急拡大している要因として、まず上述の分類にあるような多彩なサービスが登場していることを指摘。加えて、FacebookがMetaに社名変更し、メタバース事業に巨額の投資を行うといったメインプレーヤーの動きや、ブロックチェーンを基礎技術としたNFT(非代替トークン)の適用先としてメタバースが期待されていることを挙げた。

ゲームから仕事へ、用途拡大を続けるXRデバイス

 山田氏は、メタバースの実装例として、MetaのVRワークスペース「Horizon Workroom」において、VRヘットデバイスを着用し、仮想空間のオフィスで同発表会のスライド資料作成に取り組んだエピソードを紹介した。

 「ディスプレイに映る文字や手元のキーボードが見づらい、デバイスの重みで首が辛いなどの課題があり、1日中仮想空間で仕事をするのはまだ難しい。逆に言うと、それらが解決すれば、VRヘッドセットだけを持ち歩き、いつでもどこでも仮想空間上で仕事をすることは可能と確信した」(山田氏)という。

 山田氏は、2022年10月12日開催の開発者向けコンファレンス「Meta Connect 2022」において、Metaが「XRデバイスはゲームからソーシャルネットワーク、仕事のツールへと用途を拡大していく」とメッセージを発したことにも触れ、次のように語った。

 「今後は、スマートグラスやVRヘッドマウントディスプレイを融合したXRグラスが両軸の課題を解消していくことが予想される。また、デバイスの進化に合わせUXも進化する。メタバースはXR時代のUXである没入型インタフェース上のアプリケーションのありかたとなる可能性がある」(図23)。

図2:これまでのデバイスと今後のデバイス(出典:NTTデータ)
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図3:進化するコンピューティングデバイス(出典:NTTデータ)
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NTTデータが考えるメタバースの可能性と課題

 最後に、山田氏は今後のメタバースサービスの可能性をまとめ、次のように示した。

1. XRはゲームからSNS、仕事へのツールへ用途を拡大
●XRアプリケーション(教育、体験、レビュー他)がメタバース上で容易に構築可能に
●XR、他のデバイス上で実用的なゲーム、ソーシャルネットワーキング、ワークツールの登場
●既存ソフトがメタバース化

2. 新たなコミュニケーション手段がOSレベルで提供
●仮想空間上で自らが選択したアイデンティティ(匿名/仮名/実名)を持つアバターとして参加
●高い臨場感を持つコミュニケーションが実現
●メタバースが必要とする機能(アバター、没入感のあるコミュニケーション、対話認識、翻訳、AIによるアシストなど)をXRデバイスがOSレベルでサポート

3. 新たな価値・データの可能性
●複雑な物理世界を詳細にシミュレート(音響、映像、人流、物流、流体等)することで、様々な社会実験が可能に
●メタバース内行動データの取得により、様々な社会実験の実施が迅速化
●NFTにより、メタバース間や現実世界との間での価値流通の可能性

 一方で山田氏は今後メタバースが普及していく過程で抱えるであろう課題も挙げ、これらの課題解決がメタバースのさらなる普及につながっていくとした。

技術運用面:デバイスの成熟度と普及、適切なプラットフォームの選択、仮想ワールド(ルーム)の製作コスト、1空間あたりの同時接続数の上限、接客が必要な場合の人員配置、企業利用時のセキュリティ対策など
制度面:匿名性と実名制の保証、行動データの適切な取り扱い、マネーローンダリング/テロ資金供与防止(AML、CFT)対策、消費者保護、詐欺的行為の防止、いやがらせ・暴力行為の防止/監視など

●Next:歴史的建造物内部を周遊できるバーチャル空間展示

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