日本企業のデジタイゼーションやデジタライゼーションが進みつつあるが、顧客価値の創出、ビジネスモデル変革といったデジタルトランスフォーメーション(DX)のレベルではまだ不十分──。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は2023年2月9日、年次調査レポート「DX白書2023」からうかがえる傾向を説明した。同レポートでは、日米のDX動向比較調査も交えて、戦略、人材、技術の各面から、DX推進の現状や課題などを挙げている。
154の事例を3つの軸で可視化
情報処理推進機構(IPA)は、2009年から「IT人材白書」を、2017年から「AI白書」を発行し、IT人材や新技術の動向をまとめ、情報発信してきた。2021年に初めて発行した「DX白書」では、IT人材白書とAI白書から人材/技術の要素を継承しつつ、DX戦略とその推進について動向を解説している(関連記事:IPA『DX白書2021』に見る、日本企業の古色蒼然)
「DX白書2023」は、2023年のDXにまつわる動向をまとめたものだ。国内企業の事例の分析に基づくDXへの取り組み状況の概観から、日米企業アンケート調査結果の経年変化や傾向、DX推進にあたっての課題や方向性などについて解説している。事例については154件の公開事例を分析。日本のDX事例を「企業規模」「産業」「地域」の3つの軸で俯瞰図として可視化している。
例えば、地域別俯瞰図では、北海道では農業でのデジタル活用、甲信越ではドローンによる森林調査など地域産業での活用、東北、北陸、四国では働き手の減少や高齢化といった地域課題の解決への活用が見られる(図1)。IPA 社会基盤センター イノベーション推進部 部長の古明地正俊氏(写真1)は、「DXが進まないと悩む企業に、自社に近い業種・業態の事例を見てもらうことで推進の参考としてもらえる」と意図を説明した。

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多くの日本企業がDXに向かうも、日米差は依然大きい
図2は、DXへの取り組み状況を尋ねた調査項目の結果だ。DXに取り組んでいる日本企業は69.3%となり、前回調査に比べ13.5%増加した。しかし、全社戦略に基づいて取り組んでいるかの観点では、日米で13.9%の開きがある。

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また、DXへの取り組みの成果の有無を尋ねたところ、「成果が出ている」とする日本企業の割合は2021年度調査の49.5%から58%に増加している。とはいえ、日米差は依然として大きい(図3)。

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図4は、取り組みの内容と成果を答えた結果だ。「アナログ・物理データのデジタル化」「業務の効率化による生産性の向上」について成果が出ているとの回答が日米ともに80%前後で差が小さい。一方、「新規製品・サービスの創出」「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの抜本的な変革」といったトランスフォーメーションのレベルになると、日本が20%台であるのに対し、米国は60%以上と大差がついた。「日本のデジタル化は確実に進んできてはいるが、本質的な変革は進んでいない」(古明地氏)。

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調査では、IT分野に見識がある役員の割合についても聞いている(図5)。3割以上いると答えた企業は日本が27.8%、米国が60.9%と、2倍以上の差があった。「DXの推進には、経営のリーダシップが不可欠であり、日本でも経営層のITに対する理解度を高めていくことが求められる」(古明地氏)。

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自社にとって必要なDX人材の設定が曖昧な日本企業
人材面では、DXを推進する人材の「量」を調査している。人材が充足していると回答した企業は、日本10.9%、米国73.4%と大差がついた。米国では「大幅に不足している」とした企業が3.3%に減少する一方、日本では2021年度調査の30.6%から49.6%へと増加。DXを推進する人材の「量」の不足が進んでいることが明らかになった(図6)。

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また、DXを推進する人材像の設定状況に関しては、人材像を「設定し、社内に周知している」企業の割合は日本18.4%、米国48.2%となった。「設定していない」が日本40%に対し、米国2.7%と非常に大きな差がついた(図7)。「人材の獲得・確保を進める上では漠然と人材の獲得・育成に取り組みむのではなく、まず自社にとって必要な人材を明確化することが重要だ」(古明地氏)。

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●Next:技術面ではレガシー刷新に遅れ、日本企業はどうやってトランスフォーメーションを実現するか
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