企業には多くのデータが蓄積されている。ところが、データがさまざまなところに分散されているため、活用できていないことが多い。データをビジネスへ有効活用するには、データを一元管理し、分析できる状態にすることが必要だ。そこで注目を集めているのが「データファブリック」だ。2023年3月9日に開催された「データマネジメント2023」に登壇したクリックテック・ジャパン(以下、Qlik)技術本部シニア・ソリューション・アーキテクトの阿部智師氏は、自社のQlik Cloudを例に、データファブリックの実現と活用について語った。
BI/データのトレンドは「危機への対応」
Qlikでは、データ活用によってより鮮度の高い情報にもとづいたビジネスアクションをつなげていく「アクティブインテリジェンス」というビジョンを打ち出し、顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援している(図1)。
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さまざまなシステム、さまざまなアプリケーションに格納されている、サイロ化された数々のデータを統合、管理、分析することで「即座に正しいアクション」「付加価値のあるアクション」へとつなげることができる。Qlikでは、これを実現するための分析データプラットフォームである「Qlik Cloud」を提供している。
Qlikが毎年実施している市場動向調査によると、2023年はコロナ禍を経て、ロシアによるウクライナ侵攻や大国の対立などが続き、企業にとって厳しい年になるという。それを反映して「危機への対応」をテーマに、2つの分野へ注力することが重要になるとした。
1つは「意思決定の向上」である。意思決定の精度を高めて、予期せぬ出来事へどれだけスピード感を持って対応できるか。それには、予期せぬ出来事への予測を行っていく必要がある。
もう1つが「データ統合の向上」だ。データの世界はいまだに断片化されたままと言われることが多い。そのため、分散したデータセットにアクセスし、統合・監督する能力、つまりコネクテッドガバナンスの実現に取り組む必要がある。技術本部シニア・ソリューション・アーキテクトの阿部智師氏は、「中央の監視を維持しながら、レガシーシステムと新しいテクノロジーを統合することで大きな価値を引き出せるようになります」と強く語った。
コネクテッドガバナンスの実現に必要な要素として阿部氏が挙げたのが、モデル、スクリプト、分析コンテンツなどのデータや分析資産の再利用、コネクテッドAPIの利用、データカタログによる利便性の向上、機械学習モデルの生成など。「未成熟ではあるものの、アプリケーションファブリックやアルゴリズムファブリック、BIファブリックなどさまざまなファブリック、つまりXファブリックが必要になります」(阿部氏)。データを効率的かつ安全に管理するソリューションである「データファブリック」もその一翼を担うものである。
意思決定を早めるデータ活用が可能に
経営者が迅速な意思決定を行うには、データの活用が必須であることは疑いない。鮮度の高い情報にもとづき、適切なタイミングで、インサイトにもとづいたビジネスアクションにつなげていく一連のサイクルが求められるのだ。
一般的にはオンプレミスにも、クラウド環境にも、大規模なデータソースが多数存在している。データがどこにあるのかにかかわらず、鮮度の高いデータを利用するには、データ基盤がすべてのデータソースにリアルタイムに連携されている必要がある。Qlikでは、その連携を実現するデータファブリックの基盤としてQlik Cloudの活用を提案している
Qlik Cloudは、主要なデータソースにアクセスが可能で、さらにデータモデルの構築を自動化することが可能だ。クラウドへのデータアップロードは、HTTPSでセキュリティが保たれた状態でデータを移動させる。これによりクラウドデータ分析基盤で、オンプレミスデータを活用できるのだ。
阿部氏は、Qlik Cloud活用の一例として、多くの企業に導入されているSAPとの連携を挙げた。QlikにはSAP向け製品の長い実績があり、多数のソリューションを提供している(図2)。
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「Qlik Replicate」であればクラウドやオンプレのDBMS、デーウェアハウスなど、リアルタイムにデータを統合できる。「Qlik Gold Client」は、SAPの本番環境のデータを使ったサンドボックス、検証、トレーニング、開発などの環境構築を可能にする。「Qlik Sense」とSAPコネクタを利用すれば、迅速にデータを取得できる。これにより、低コストでセルフサービスによるデータ分析が可能となる。
拡張知能や機械学習によりさらなるデータ活用が可能に
阿部氏は「データは正しい分析を行って初めて、正しいアクションにつなげることができます」と強調する。データ分析基盤を利用するユーザーは、それぞれの立場からそれぞれの理由によって分析を行っている。例えば新入社員と経営層では、データ活用のレベルもニーズもまったく異なるのだ。
さらにデータを理解したら、インサイトを導くことが求められる。データ分析基盤であるQlik SenseにはAIが搭載されており、データの関連付け、推奨するチャートの生成、連想される洞察、隠された洞察を自動で導き出してくれる(図3)。AIがユーザーをサポートするため、データリテラシーがあまり高くないビジネスユーザーでも、より多くの洞察を得られ、また作業効率が向上するため、付加価値のある作業に集中できると言う。
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阿部氏は「もはや機械学習は高度なスキルを持ったデータサイエンティストだけのものではありません」と述べた。プログラミングなどの高度なスキルを持たなくても、「Qlik AutoML」を使うことで機械学習による予測分析をビジネスユーザーが利用することが可能になった。
営業であれば案件の勝率予測、マーケティングであれば解約可能性の高い顧客の判別予測など、過去のデータの分析だけでなく、予測も含めた分析がQlik AutoMLによって可能になる。
データファブリックを実現するデータ活用基盤を構築することでデータへのアクセスが容易になり、ビジネスはさらなる広がりを見せる。データを活用・分析することで、どういった洞察を見出すのかが問われることになるだろう。
●お問い合わせ先
クリックテック・ジャパン株式会社
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