変化が激しいからこそ経営層にはデータに基づく迅速な意思決定が求められる。しかし、なかなか成果にたどり着かないという声が少なくないのも事実だ。2023年3月9日に開催された「データマネジメント2023」に登壇した日本電気の大貫太郎氏は、経営層が適切なデータ活用を行うことが重要だと語り、データ活用の成功確率を上げるためのコツについて解説した。
VUCAの時代を乗り越えるためのデータドリブン経営
今はVUCAの時代といわれている。変化が激しく(Volatility)、不確実で(Uncertainty)、複雑性が高く(Complexity)、曖昧(Ambiguity)──それが現在の状況だ。企業は、業務上の課題を抽出して原因をひも解き、解決策を導き出すといった対応を、非常に早いサイクルで実行しなくてはならない。
月次の報告書をスプレッドシートなどから各担当者が作成し、それを基に経営層が意思決定を行っている事例はいまだに珍しくない。しかしもはや、月次のサイクルでは後塵を拝すのみ。データに基づいて現状の把握や原因の追及をし、仮説を立てて施策を実行、その結果をデータで検証する。このサイクルをリアルタイムかつ迅速に回すことが求められているのだ。
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このPDCAサイクルの高速化、すなわちデータドリブン経営こそが持続的成長へとつながっていく。世界的に見ても高い成長率を維持している企業は、データドリブン経営を取り入れていることが分かっている。
実際にデータを用いた経営を目指していても、うまく取り組めていない企業は少なくないようだ。日本電気の大貫太郎氏は、「ガートナー社による日本企業に関する調査報告によると、データから全社的にビジネス成果を上げている企業は全体のわずか16%という結果が出ています」と、データドリブン経営の厳しい現状について話した。その背景には、データを意思決定につなげられていない、必要なデータを取得できていない、せっかく作ったダッシュボードが使われないなどの問題がある。
トップアプローチでデータ活用プロジェクトを進める
データ活用プロジェクトの進め方には、大きく2つのやり方がある。それが「現場アプローチ」と「トップアプローチ」だ。現場アプローチは、業務部門における業務改善や個々の業務に沿ったレポートの作成など、現場に寄り添った開発を行っていくことだ。
それに対してトップアプローチは、経営判断の迅速化やその精度の向上を目的としている。多くの部門で共通して使うことができる指標を用意する必要があり、それを作るには経営層と話をしながら進めていくことになる。
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経営層が経営判断の迅速化のためにKPIを一覧で見ることが出来る経営ダッシュボードを導入することがある。その際、効果的なのがトップアプローチである。
大貫氏は経営ダッシュボードに取り上げるKPIについて、「全社の指標を管理している管理部門や財務部門、経理部門などへヒアリングをして進めていくのがよい」と強調。その経営ダッシュボードを導入した後、利用の定着化にも取り組んではじめて成果に近づくことができる。
成果を上げるデータ活用のやり方とは
データ活用による成果を上げるために有効な3つのポイントとして、「適切な課題設定」「KPIの決定・統一」「トライ&エラーの繰り返し」がある。このなかでもっとも重要なのは課題設定だ。課題を明確にしてどういったデータを集めるのかというところから始めなければ、求める結果を得られないことが多い。
そして経営ダッシュボードを作るにあたっては、経営判断の迅速化とその精度の向上が求められる。KPIは事業部門ごとに異なるものが設定されているため、トップアプローチによってKPIのロジックを統一して意味のある数字をダッシュボードに反映することが重要である。特に事業部門ごとのKPIはバイアスが適応されているリスクも高いため、注意する必要がある。大貫氏は「さらに自動化や更新頻度を向上して、リアルタイム化していくことが目指すべき形」と加えた。
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データ活用では、いきなり100点満点の仕組みができることは無いといっていいだろう。100点満点を目指すよりも、早いタイミングでローンチして、多くの人からのフィードバックを得て改善していくことが重要だ。トライ&エラーが必要なのである。
現場や利用者などからのさまざまなフィードバックや質問があればそれを反映して、よりよいものにしていく実直な取り組みが欠かせない。変化の激しい時代なのでKPIや必要なデータ自体も変わっていくことがある。大貫氏は「ダッシュボードは常に生きもののように変化していくという意識を持って、よりよいものをつくっていただけたらと思います」と話した。
さらに大貫氏は、ダッシュボードの利用を定着していくための重要なポイントとして「60%、70%の段階でローンチすること」とアドバイスした。そして、使用している人からのリクエストがきたら、できるだけ早くそれに応えていくことも重要となる。そうしないと現場の担当者は「従来のレポートで良い」と新しいダッシュボードを利用しなくなってしまう。現場とコミュニケーションしながら期待に応え、定着されていくことも、データ活用のプロセスでは非常に重要なのだ。
データを活用したからといって、すべての施策が成功するわけではない。「必ずしもよい結果が出るとは限らないというところも、データ活用の難しさです」と大貫氏。データ活用を成功させるには、いくつもの施策を効率よく打ち続け、いかに成功確率を高められるかが肝心である。
その成功確率を上げるには、多くの人がデータにアクセスできる環境、そしてそれを活用できる人を増やす必要がある。データドリブン経営を成功に導くには、ただデータを集めるだけでなく、活用できる環境作りこそが鍵を握るのだ。
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日本電気株式会社
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