[市場動向]

「プラットフォーマーの使命を果たしていく」ヒックスCEOと三浦社長が改めて示す、レッドハットの“The Open Source Way”

2023年12月20日(水)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)

Linuxムーブメントの黎明期からの牽引と商用オープンソース企業としての躍進、IBMによる業界最大級の買収──経営のステージが変化しても米レッドハット(Red Hat)が果たす使命は変わらず、オープンソースの技術と文化で顧客企業のイノベーションを支援していく姿勢を明らかにしている。2023年10月開催の年次コンファレンス「Red Hat Summit: Connect Tokyo 2023」で発表された内容を振り返り、同社が描くこの先の“The Open Source Way”を探ってみたい。

「オープンソースが世界中でイノベーションを創出してきた」

 「1991年、リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏がホビーとして作成したLinuxが世界にディストラクション(破壊的革命)をもたらす始まりとなった」──。Red Hat Summit: Connect Tokyo 2023の基調講演に立った、米レッドハットCEOのマット・ヒックス(Matt Hicks)氏(写真1)は、同社が掲げる“Open Source Way”の原点であるLinuxと、Linuxが拡げたオープンソースモデルについて言及した。

写真1:米レッドハットCEOのマット・ヒックス氏

 ITエンジニア出身のヒックス氏は、「Linuxが登場したときのことをよく覚えている。私自身もLinuxの進化とともにスキルを磨いてきた」と話す。それから年月を重ね、Linuxとオープンソースがソフトウェアの開発モデルを変え、世界に多数のイノベーションをもたらしたと強調。「テクノロジーには世界をよりよくするポテンシャルがある。Linuxとオープンソースはそのことを証明し続けてきた」(ヒックス氏)

 こうした発言からもわかるように、エンジニアとして長年にわたりキャリアを積み上げてきたヒックス氏は、前CEOのポール・コーミア(Paul Cormier)氏と同様、“The Open Source Way”の強力な推進者であり、オープンソースによるイノベーションを技術と文化の両面から牽引してきたリーダーの1人でもある。

 近年のレッドハットは、創業当初からの主力プロダクトであるOSの「Red Hat Enterprise Linux」に加え、インフラ構成管理/自動化ツール「Red Hat Ansible Platform」、Kubernetesコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift」の3本柱が同社のハイブリッドマルチクラウド戦略のコアとなっている。いずれも、オープンソースプロジェクトをアップストリームとして開発が行われており、「オープンソースで世界のイノベーションを支援する」というミッションに忠実な姿勢を崩すことなく、プラットフォームビジネスの拡大を続けている。

 特にここ1、2年はマルチクラウド環境におけるOpenShiftの導入事例が増えている。ヒックス氏はプレスブリーフィングで次のように説明した。「レッドハットの使命は我々のオープンソースをベースにした技術でイノベーションを前に進めること。オープンソースはだれでも手に入れられるが、イノベーションを支える技術は可能なかぎり、シングルフレームで運用でき、しかも容易に導入できることが重要だ」

 その意味で、OpenShiftはまさにイノベーションの出発点に適している、と同氏は強調。分散コンピューティングが一般的になった現在は特に、開発者が好きな言語・ツールで開発でき、アプリケーションをどこにでもデプロイできる“Run Everywhere”な特徴が高く評価されているとして、イノベーションの起点、トリガーとしてのOpenShiftの役割を強調した。

自動化を強く指向する新製品・新機能

 上述したように、レッドハットのビジネスの中核は、オープンソースをベースにしたITインフラ/システム稼働基盤の提供によるイノベーションの支援である。具体的には、「ITリソースの効率化と節約を図り、より少ないリソースでより多くを生み出す」というユーザー企業の課題解決に注力して、既存の環境に多額の追加投資や大がかりな改修を伴うことなく、ビジネス目的を迅速に達成するための製品・ソリューションを提供することだ。

 製品・サポートの提供形態はトレンドやニーズによって変化するが、ヒックス氏は現在のレッドハットがフォーカスするアプローチとして以下の4つを紹介している。いずれも2023年5月開催の「Red Hat Summit 2023」で発表もしく機能追加されたものである。

●Red Hat Developer Hub:オープンソースの開発者ポータル「Backstage」をベースにした開発者向けポータル。利用可能な開発者リソースを単一画面で表示し、セルフサービス型でアプリケーション開発を支援する。

●Red Hat Service Interconnect:オープンソースのKubernetesクラスタ連携ツール「Skupper」をベースにした、ハイブリッド環境(パブリッククラウドとオンプレミスなど)で動作するアプリケーション間をL7レイヤで接続するツール。ネットワークの再構成やセキュリティ権限の変更などを必要とせず、環境をまたいだアプリケーション間連携が可能。

●Event-Driven Ansible:「Red Hat Ansible Automation Platform」の一部で、イベント(Webサーバの停止、ルータの非応答など)を検知すると、それをトリガーにルールブックで定義されたアクションを実行する自動化機能。障害対応の完全自動化とシステムの安全性向上を実現する(図1)。

●Red Hat OpenShift AI:OpenShiftで、アドオン型で利用可能なAI/マシンラーニングの総称。IBMと共同で開発した生成AIによるコード作成支援機能が特に注目される。生成AIによるコーディング支援ツール「IBM watsonx Code Assistant」を統合し、自然言語からAnsible Playbook用のコードを自動生成する「Ansible Lightspeed」(図2画面1)である。日本での提供時期は未定。

図1:イベント通知をトリガーにIaCコードを実行する「Event-Driven Ansible」の概要(出典:レッドハット)
拡大画像表示
図2:生成AIを使ってIaCのコードを自動生成する「Ansible Lightspeed」の概要(出典:レッドハット)
拡大画像表示
画面1:「Ansible Lightspeed」のコーディング自動化イメージ(出典:日本IBM)
拡大・アニメーション表示

 これらから、現在のレッドハットが自動化を強く指向していることがうかがえる。「イノベーションを、今ある環境で最大の成果を、コストを抑えてスピーディに生み出す」(ヒックス氏)ために自動化は必須であり、生成AIというメガトレンドも自動化を加速するケイパビリティの1つとして実装している点が興味深い。

●Next:新社長の三浦美穂氏が掲げる日本法人の成長戦略

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
関連キーワード

Red Hat / OpenShift / Ansible / Red Hat Enterprise Linux / Linux / 生成AI

関連記事

トピックス

[Sponsored]

「プラットフォーマーの使命を果たしていく」ヒックスCEOと三浦社長が改めて示す、レッドハットの“The Open Source Way”Linuxムーブメントの黎明期からの牽引と商用オープンソース企業としての躍進、IBMによる業界最大級の買収──経営のステージが変化しても米レッドハット(Red Hat)が果たす使命は変わらず、オープンソースの技術と文化で顧客企業のイノベーションを支援していく姿勢を明らかにしている。2023年10月開催の年次コンファレンス「Red Hat Summit: Connect Tokyo 2023」で発表された内容を振り返り、同社が描くこの先の“The Open Source Way”を探ってみたい。

PAGE TOP