[市場動向]
NEC、「光空間通信」において地上10km超の長距離通信と、地上/屋上3km間の高度差通信に成功
2025年4月25日(金)日川 佳三（IT Leaders編集部）
NECは2025年4月25日、光ファイバーなどの物理的な経路を介さずに空間上で光のビームを送受信することで通信を行う「光空間通信」において、地上で10km超の長距離通信に成功したと発表した。東京スカイツリー展望台の屋上から約3km離れた地上との間での高度差通信にも成功したという。今後、装置を小型化して2028年に製品化する予定である。
NECは、空間上で光のビームを送受信する「光空間通信」において、地上10km超の長距離通信と、地上・屋上約3km間の高度差通信に成功したことを発表した。
長距離通信の試験は、栃木県那須塩原市で2025年1月～2月に実施した。10km以上離れた一対の光空間通信装置間で通信し、長距離でも双方向の光ビームの自動捕捉・追尾が正しく機能し、通信できることを確認している（写真1）。
写真1：那須塩原市で実施した長距離試験の様子（出典：NEC）拡大画像表示
高度差通信の試験は、東京スカイツリー（東京都墨田区）で2025年3月に実施した。地上350mにある東京スカイツリー展望台の屋上と、約3km離れた地上の2地点間で通信した。通信できることの確認と共に高度差による大気の揺らぎが通信に与える影響を測定した（写真2）。
写真2：東京スカイツリーで実施した高度差試験の様子。展望台屋上（写真左）と地上（写真右）（出典：NEC）拡大画像表示
光空間通信は、電波に比べて高速かつ大容量の無線通信が可能な通信方式である。指向性が高くビームが広がらないため、第三者による傍受のリスクが低く、通信の干渉や輻輳が起こりにくい。電波の利用申請も不要であるという。
これらの特性を生かした用途として、NECは、光ファイバーの設置が困難な場所での通信や、海上船舶と地上間の通信、災害時に有線通信網が被災した場合、安全保障に関わる秘匿性の高い短距離・中距離通信を挙げている。
一方、地上で行う光空間通信の場合、陽炎のような大気の揺らぎが通信に与える影響が距離に応じて大きくなる。また、高度で異なる大気の揺らぎの把握が難しい。このことから、安定した通信の確保が困難であるという。今回、NECは、通信システム向けの捕捉・追尾技術や、人工衛星に活用している宇宙空間での長距離光通信技術を応用することで、これらの課題を解決した。
今後は通信品質を向上させると共に、装置サイズを現状の約2立法メートルから、1人で持ち運べる100分の1程度に小型化し、2028年に製品化する予定。将来的には、量子暗号通信を組み合わせた空間量子鍵配送技術を地上と衛星間の通信に適用することも視野に入れるとしている。
