[市場動向]

「とりあえずDX」「とりあえずAI」はなぜ頓挫するのか?──IPA平本氏が警鐘を鳴らす「基礎なき変革」の限界

ITリーダーが取り組むべき、AI時代を見据えたデータ基盤の再設計

2026年4月21日(火)神 幸葉(IT Leaders編集部)

DXやAI活用に取り組んでいるにも関わらず、本質的な変革につながらないのはなぜか。2026年3月17・18日に開催された「CIO Japan summit 2026 Osaka」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッド)に、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) デジタル基盤センター長である平本健二氏が登壇。政府のIT・データ戦略の中枢を歴任し、現在デジタル基盤の整備やAIの安全性確保などを推進する同氏が、「DX はなぜ止まるのか―価値創出につながるデジタル基盤とガバナンスの再設計」と題して講演を行った。

日本企業が直面する「DXの本質的課題」

 多くの日本企業で「わが社もDXを」と号令がかかるものの、本質的な変革はなかなか進んでいない。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) デジタル基盤センター長の平本健二氏(写真1)はその理由の1つとして、「デジタル化に対する社会的なコンセンサスの弱さ」を指摘した。いまだに紙ベースの業務が好まれ、「今のままでも業務は回っているのに、コストをかけてまで変える必要があるのか」という現場の抵抗は根強い。

写真1:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) デジタル基盤センター長 平本健二氏

 さらに深刻なのが、基盤を作るための投資が理解されないことだ。データ基盤の整備は中長期的な投資が必要で、成果が出るのにも時間がかかる。そのため、短期的な成果が見えやすいAIにばかり投資が集中する。

 また、データを整備する部門と、データを活用して利益を享受する事業部門が異なる点も、基盤構築のハードルを上げている。加えて、「日本企業は既存の業務を少し改善することは得意だが、基盤から本質的に改革する訓練を受けていない」と平本氏は語る。

 例えば、行政の各種手続きや企業間取引では、住民票や法人の登記事項証明書の提出が求められることが多い。しかし、マイナンバーカードの提示や、国税庁などの公式サイトを確認すれば、最新の住所や法人の存在は即座に確認できる。それにも関わらず、これまでの慣例や規則という理由だけで、無駄なプロセスが続けられている。「AIがあればわが社も何とかなるのではないかと言われても、そうはいかないというのが現状です」と、平本氏は変革に向けた課題を改めて指摘した。

指数関数的に増えるデータと「アップデートする世界」

 続けて平本氏は、「これから企業が向き合うべきは、データ量が爆発的に増加する世界」であると語った。世界のデータ量は2025年の175ゼタバイトから、2035年には2142ゼタバイトへと10倍以上に膨れ上がる(図1)。IoTデバイスやセンサーの数も倍増し、従来の固定型センサーだけでなく、スマートフォンやコネクテッドカーなどのモバイル型センサーから膨大なデータが生み出されるようになる。

図1:データ量は指数関数的に増加(出典:IPA)
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 同時に、「これからの時代はすべてのものがアップデートする世界になる」(平本氏)。SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義車両)に代表されるように、さまざまな製品・サービスが購入後、ソフトウェアアップデートによって性能が変わっていくためだ。

 テクノロジーやビジネスモデルが目まぐるしくアップデートされる中、課題となるのが「ルールのアップデート」だ。法律や条例、社内規則を変えるには数カ月から数年の時間がかかるが、技術の進歩は待ってくれない。

 そのため海外では、法律自体をプログラミング言語で記述しシミュレーション可能にしようとする動きや、基本事項のみを法律で定め、細かな施行規則は柔軟に変更できる「ソフトロー」と組み合わせたアプローチが模索されている(図2)。

図2:アップデートする社会への対応が求められる(出典:IPA)
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 「テクノロジーやルール、ビジネスが変われば、人間も働き方やスキルを変えていく必要があります。人間が変わると、新たなAIの開発やアップデートがあり、それに合わせてルールが変わる、といったアップデートサイクルが今後世界中で起こっていくでしょう。製品やサービスもそれに合わせて開発していく必要があります」(平本氏)

 その時に問題になるのがギャップをどう捉えるかだ。ルールと技術のギャップに対して、海外企業は「ルールに書いてないことはやっても問題ないはず」とブルーオーシャンに飛び込んでいく。

 一方、日本企業は「グレーゾーンかもしれない」「規制に引っかかる恐れがある」と躊躇し、一歩出遅れてしまいがちだ。平本氏は例として、ネットオークションが登場した際、米国企業が瞬く間に世界市場を制覇したのに対し、日本企業は古物営業法との兼ね合いを懸念して出遅れた歴史を挙げた。

●Next:どのようなデジタル基盤を設計すべきか? 基盤に求められる3つの要件

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