[市場動向]

SaaS市場展望座談会─「まずは情報系からクラウドシフトが加速する」「メリハリあるIT投資にSaaSは不可欠」

SaaS本番へ! Part6

2009年3月24日(火)IT Leaders編集部

SaaSビジネスを手がける企業は市場トレンドをどうとらえているのか。4社の代表が、ユーザーの意識の変化やSaaS普及の障害、将来展望を本音で語った。そこには、SaaSに寄せられるコストと機動性への期待と、自前の基幹系システムとサービスを組み合わせた効率的なITの将来の姿が見えてきた。(文中敬称略)聞き手:本誌副編集長 川上 潤司 Photo:的野 弘路

間下浩之氏 間下浩之富士ソフト 営業本部 副本部長
組込系システム開発や受託計算から出発した富士ソフトは、受託開発型から提案型へのビジネスモデルの転換に取り組む。昨年6月には、Google Appsの企業向けバージョン『Google Apps Premier Edition』の国内初の販売代理店に。今年4月からは、同サービスを使った社内の情報管理システムも運用する

─ SaaS導入の機運が国内でも高まっているように思うのですが、市場の変化をどう見ていますか。

間下: グーグルのメールやグループウェアを企業向けに提供する「Google Apps Premier Edition」の販売を始めて約半年ですが、現在、数百社の案件が動いています。コスト意識が高いユーザーが、真剣に検討を始めました。特に昨年11月以降は、商談件数が急激に増えていますね。

コスト面で圧倒的なメリットがあるとなれば、特に「情報系」と言われる分野ではデータがどこにあるかとか、セキュリティはどうなのかといった、世間でよく言われる不安材料を並べていつまでも先送りにすることが許されなくなってきたのが現状ではないでしょうか。Google Appsはとにかくコストを下げたいというニーズに合っていると感じています。社員数が1万人以上の大企業でも状況は同じ。業種も関係ありませんね。

宮田: セールスフォースのビジネスを約3年手掛けてきましたが、3年前と今ではユーザーは相当変わってきました。以前は、使わないことの“言い訳”を探しているユーザーが多かったのですが、今は、ユーザーの方から「この課題をクリアできないだろうか」と持ちかけられます。ユーザーが本気になってきたのが分かりますね。

導入の動機や理由としては従量制というコスト面よりも、やりたいことを早くやる手段として注目している感じがします。ユーザーとしては、戦略的な業務システムをスピーディーに構築して機会損失を防ぎたい。そのためにSaaSが使えないだろうか、と考えているのではないでしょうか。

豊本: 特に首都圏の企業では、SaaSの認知度が上がってきていると思います。全体としてはクラウドというくくりになるのでしょうが、地に足が着いている部分としてSaaSを利用しようという土壌ができてきています。データを社外に置いて大丈夫か、サービス水準の合意としてSLAは結べるのか、といった点を気にする声はまだありますが、選択肢の1つとして認められつつあります。

適用分野としては、やはりCRMなどの情報系が多いのが現状です。日本に本社があって、海外展開している企業などでは、身軽なSaaSがなじむのか「明日にでも始めたい」といった声も出始めました。

─ 情報系ではSaaSが有力な選択肢となりつつあるということですが、中堅中小企業の基幹系システムをSaaSモデルでも提供しているPCAさんは、どう見ていますか。

篠崎: 当社のユーザーは社員が100人以下の企業が多く、SaaSという言葉は響きません。SaaSというより、複数台のPCで複数拠点から利用したいというユーザーに「ネットで利用できますよ」とアピールしています。

IT人材の確保に悩む小規模なユーザーは、とにかく解決したい課題を優先して考えていますから、データを社外に出すことへの不安の声はほとんど聞きませんね。

カスタマイズへの対応が現実的な普及を促進

─ アプリケーションをネット越しに利用するという点では、かつてASPが注目されたものの、なかなか浸透しませんでした。ここにきてSaaSが普及の兆しを見せるというのは大きな変化があったということなのでしょうか。

宮田:複数のサービスを組み合わせたり、カスタマイズできたりすれば、ASPも広がったかもしれませんね。

豊本: そう思います。セールスフォースも当初はASP型の域を出ず、カスタマイズは難しかった。そのやり方では厳しいということで、SaaSモデルに作り直して、カスタイマイズ性が向上し、今のように普及してきたのです。仮想化やネットワーク環境といった技術面でのブレークスルーは確かにありましたが、カスタイマイズできるようにしたことが、大きかったんだと思います。

間下:  もっともユーザーからすれば、ASPであろうがSaaSであろうが、サービスを支える技術論は二の次です。スピーディーに導入したい、レスポンスを確保したい…。やりたいことができて、しかもコストが安い、というニーズに応えられれば良いんです。

基幹となる業務システムは残り情報系システムはSaaSへ

宮田隆司氏 宮田隆司みずほ情報総研 金融ソリューション第2部 部長
第一勧銀情報システム、富士総合研究所、興銀システム開発の3社の統合によって誕生したみずほ情報総研は、システムインテグレーション、アウトソーシング、コンサルティングの3つの事業を展開。セールスフォース・ドットコムと業務提携して、SaaSによる顧客管理・営業支援サービスを提供する

─ 情報系の分野からSaaS普及が進んだとして、最終的にすべてのシステムがSaaSモデルで置き換わる可能性はいかがでしょう?

間下:  基幹業務系のシステムをSaaSにすべて置き換えるのは、まだ難しそうですね。情報系システムの場合、機能的にはそれほど差別化要因がありませんから、外に任せても良いという話になりやすい。しかし、基幹業務系システムのSaaSへの移行となると壁は厚い。やはりデータを外に出すのは抵抗があるというユーザーは少なくありません。大企業では7〜8割がそう考えている。まだ踏み出せないという声はしばらく続きそうです。

宮田:金融機関が勘定系システムをSaaSでまかなうというのは考えにくいですよね。IT投資の効率化という観点では、地銀が取り組んでいるセンター共同化などが限界かもしれません。

間下:  あえて言うと、基幹系システムのバックアップとか、ピーク時にイレギュラーで飛び出してしまう処理とかをカバーするといった領域でSaaS利用というのは考えられますね。

豊本: 新商品を発売した際のコールセンター業務などは、格好の対象になるかもしれません。

─ 情報系システムだとしても、SaaS利用には少なからず現場の抵抗がありそうですが。

間下:  当社では、全社員1万人に対して、4月からGoogle Appsを導入することを決めたのですが、全く抵抗はありませんでした。個人レベルでGmailを使っていた人も多く、すでに使い慣れているんですね。それがエンタープライズ版になって、独自ドメインが使えたり、セキュリティが強化されたり、企業として使いやすくなれば、さらに良いのでは、という感じです。

この例ですべてのSaaSを代弁するわけにもいきまんが、いざ使い始めてみると、慣れるのは案外早い。さらにユーザーに鍛えられて機能も進化するのですから、抵抗するよりはまず使ってみるべきでしょう。

ただ毎日のように機能が変わるのは、ちょっと困りものですね(笑)。どんどん良いものに進化していくからこそ、SaaSなのでしょうが、それに企業活動が振り回されると本末転倒です。

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