三菱電機は2010年2月16日、研究開発(R&D)活動の発表会を開催した。同社の事業は情報システムだけでなく、社会インフラや材料分野まで幅広いため、発表内容の分野も多岐にわたる。今回は発表内容の中から、情報システムに関連の深いものをピックアップして紹介する。
暗号化した2つのデータを復号なしで照合
2つめは、2つのデータが一致しているかどうかをデータを暗号化したままで確認できる「秘匿照合技術」だ。暗号化方式には共通鍵暗号の1種である「準同型暗号」を利用。この技術を利用すると、SaaSなどのユーザー認証の際、元のデータをサービス事業者に開示することなく認証できる。特に指静脈認証や顔認証などの画像による認証への応用を想定。技術はすでに完成しており、クラウドコンピューティングやSaaS事業者をターゲットにした商用化を検討しているという。
クラウドやSaaSが一般化してきたことを背景に、社外のデータセンターで運用するサービスを利用する機会が広がってきた。サービスの利用にはユーザー認証が必要で、IDなど、認証に利用するデータを暗号化して送信し情報漏洩を防ぐ方法が主流だ。だが通常の暗号方式で暗号化した場合、暗号化したままのデータでは登録時のデータとの照合ができないため、サービス事業者のサーバー内で一旦復号する必要が出てくる。そのため、サービス事業者がそれらを不正に取得する可能性が残っていた。そこで三菱電機は、暗号化した2つのデータを復号なしで照合できる秘匿照合技術を開発した。
画像の照合を例に、具体的な仕組みを説明する。まず暗号化前の2つの画像の照合を考えよう。2つの画像を、色や大きさといった特徴を基に一定の規則で数値化し、それぞれ0と1の列(ベクトル)に変換する。2画像のベクトルを先頭から順に比較し、0と1が反転している箇所の数を2画像間の「距離」と定義する。距離がゼロに近づくほど、2画像の一致度が高いことになる。次に暗号化後の2画像の照合を考える。開発した技術を利用して暗号化すると、暗号化後の2画像間の距離が暗号化前の距離と一致する。このため、画像を復号することなく画像の一致度を確認できる。
電気自動車などに余剰電力を割り振り逆潮流の影響を最小化
太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの普及が始まっている。CO2(二酸化炭素)の発生を抑えられるなどメリットは多いが、本格的に普及すると余剰電力の発生などによる既存の配電網への影響が無視できなくなる。ITを利用してそうした新しい課題の解決を支援するシステムが、「電力系統シミュレータ」だ。
電力会社は、配電網における電圧の管理を容易にするため、配電網を制御して発電所に近いほど配電電圧を高く(101~107V)、遠くなるほど配電電圧を低く(95~100V)している。電流は電圧の高いところから低いところへ流れるため、従来のように電力会社から送電網に一方通行で配電する場合には問題はなかった。
太陽光発電が家庭に普及すると、この状況が一変する。自家発電した電力のうち、家庭内で消費できなかった余剰電力は電力会社に送り戻すことになる。すると家庭から配電網に電流が流れる「逆潮流」という現象が発生する。逆潮流が発生した個所の配電電圧は通常よりも大きくなるため、配電網内で局所的に電流の流れる方向が通常時と逆になる。これが配電網のあちこちで発生すると、配電網全体の電圧制御が困難になってしまう。
三菱電機がこの問題の解決を支援するために開発したのが「電力系統シミュレータ」だ。電力系統シミュレータは、太陽光発電が配電網に及ぼす影響を高速にシミュレートできるシステム。電気自動車や電気給湯器に余剰電流を回すことも考慮して、数秒でシミュレーション結果を算出できるという。電力会社ではシミュレーション結果を基に、各家庭の余剰電力を一時的に電気自動車の充電に割り振るといった制御をすることで、逆潮流による配電網への影響を抑える。
電流や電圧を計測して電力会社に送信する「スマートメーター」を各家庭に導入することが前提となるため、システム全体の実用化には10年程度かかるという。スマートメーターは、ITを利用して電力の安定供給を可能とする「スマートグリッド」の要素技術の1つだ。