政府主導の「霞が関クラウド構想」は、2009年6月に立ち上がった。その具体策として、総務省は2010年4月に「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会最終報告書〜政府共通プラットフォームの構築に向けて」を発表。バラバラに開発・運用している政府系システムを統一して、全体のITコストを引き下げる方針を明らかにした。
総務省の調査によると、各府省が運用中のシステムは現在、本省・地方を含めて2059ある。これらの年間運用コストの合計は、約3900億円に上るという(図)。こうしたシステムをクラウド上で集約してシェアドサービス化すれば、大きなコスト削減効果を見込める。
電子政府の実現が急務
クラウドを利用したシェアドサービス化によって業務効率化を図り、税金の無駄遣いをなくすことは重要だ。しかし、それはあくまで府省にとって、つまり“内向き”の効果でしかない。国民にとっては「So What?」である。霞が関クラウドには、業務効率化によって削減したコストを再配分し、地方と中央の境目のない電子行政を実現する効果も期待される。具体的には、行政手続きのワンストップ化や、公的個人認証サービスの利便性向上などである。
歴史を振り返ると、日本の電子政府政策の起源は2001年3月に策定された「e-Japan重点計画」にさかのぼる。その後、電子政府への取り組みは「e-Japan2002」「u-Japan戦略」「i-Japan戦略2015」などと、形を変えながら続いている。
ところが、10年に及ぶ取り組みにもかかわらず、成果はまだ出ていない。
国連が実施した世界電子政府調査「The UN Global E-Government Survey 2010」において、日本のランキングは17位。他の先進諸国に大きく遅れをとる現状が明らかになった。同調査で、米国を抑えて堂々の1位となったのは韓国だ。「電子政府法」を制定し、大統領をトップとする強力なリーダーシップの下に電子政府を推進した結果である。同国は、国民登録番号制度も導入済みだ。
なぜ、日本は韓国にここまで水をあけられたのか。韓国は、1997年のIMF経済危機を契機として、国際化や情報化そしてIT活用による「知識情報を基盤とする経済への転嫁」を否応なく迫られた。一方、日本の行政や国民、政治家はこれまで、韓国ほどの危機感を持っていなかった。「日本は経済水準の高いIT先進国である」という驕りが、電子政府における“失われた10年”を招いたと言える。
しかし、光明も見える。政府のIT戦略本部が2010年6月に打ち出した「新たな情報通信技術戦略(新IT戦略)」である。「国民本位の電子行政の実現」を大きな柱の1つに掲げ、行政サービスのオンライン化や国民ID制度の導入といった方針を明文化。さらに、法制度を裏付けに実質的な権限を持つ「政府CIO」の設置など、電子政府を推進するための具体的な施策を数多く盛り込んでいる。
この新IT戦略が実行に移されれば、今後10年で日本の電子政府は大きく進展するはずだ。くれぐれも、「雲が霞んでしまう」ことのないよう、行方を注視したい。
- 桑原 義幸
- インターフュージョン・コンサルティング 社長